ピアノの力

ピアノが教えてくれる、本当に大切なもの(上) 習うことで身につく力とは?

2022.04.28

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大内 孝夫
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習い事の多様化とともに人気に陰りが出ているピアノ。しかしピアノには、じつは驚くほどの教育効果があるといいます。その効果とはどのようなものなのでしょうか。名古屋芸術大教授の大内孝夫さんが、ピアノを習うことに秘められた力を3回に分けてお伝えします。

春の入学シーズン。ご入学、ご就職など、お子さんが新たなステージを迎えられる親御さんも多いことと思います。また、小さなお子さんがいらっしゃる場合、お子さんに何を習わせようか、と頭を悩ます時期かもしれませんね。

お子さんの習い事の人気は、時代とともに変化するようです。学研教育総合研究所「小学生白書」によれば、2000年代まではピアノが長らく人気NO.1の座に君臨していましたが、2010年代には水泳が取って代わるようになりました。ピアノ(または音楽教室)は、その後学習塾に抜かれ、最新の21年調査では3位通信教育、4位英語・英会話に次ぐ5位となっています。最近授業に導入されたダンスやプログラミングも人気化しており、まだまだこれから大きな順位変動がありそうです。

習い事の多様化とともに人気に陰りが出ているピアノ。しかしピアノには、じつは驚くほどの教育効果があり、最近では男の子の習い事としても注目を集めています。その効果とはどのようなものか、このコラムで3回に分けてお伝えしていきます。今回は次の3点についてです。

① 脳にいい影響を与える?
② 非認知能力が鍛えられる?
③ 「真摯(しんし)さ」が身に付く?

①    脳にいい影響を与える?

最近はさまざまなメディアで「ピアノは脳にいい」と紹介される機会が増えました。ただ実際どういいのか、となるとあいまいな情報が多いように思います。言葉通りの意味で捉えると、脳の「性能」がよくなるということですが、それだけではなく、習うことで身に付く能力もあります。まずそちらからお伝えしたいと思います。

ヒトに限らず生物には、脳の成長過程でしか身に付かない能力があり、絶対音感や手指を素早く動かせる能力などは、個人差はあるものの7歳くらいまでとされています。ですから、この時期(臨界期といいます)を逃してしまうと、中学や高校で「音楽をやりたい」と思った際、ハンディキャップになりかねません。

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私もあるきっかけで中学2年のときに音楽に目覚めました。その際、妹にピアノを習ったり、音大生のいとこからフルートを譲り受けて習ったりしましたが、絶対音感はおろか相対音感も身に付けることができませんでした。かなり夢中になったので、ある程度の上達はしましたが、いまだに速いパッセージは苦手ですし、上下2段の楽譜を目で追うこともうまくできません。中学2年では、脳と手指などの動きをつなぐ「錐体路(すいたいろ)」や、視覚と手指を連動させる「脳梁(のうりょう)」の成長段階が終わってしまい、新たな能力として身に付けることができなかったのです。

逆に小さい頃習っていれば、楽譜や手指の動きだけでなく、音の微妙な違いも聞き分けられるようになります。しかも、途中で習うのをやめたとしても、中高年になって「また弾きたい!」と思ったとき、比較的短時間でやめる直前のレベルまで復元できるよう、脳はプログラムされています。そのため、最近「働き方改革」などの影響で音楽教室に通う大人が増えていますが、小さい頃ピアノを習っていてよかった!と実感し、「習わせてくれた親に感謝している」との声が、多くの中高年の方々からあがっています。

次に脳の「性能」の向上を示す具体的な研究成果です。ピアノや別の楽器演奏、歌について、次のようなものがあります。紙数の制約上、詳しくご紹介できませんので、ご興味のある方は拙著『「ピアノ習ってます」は武器になる』(音楽之友社)をご覧ください。

① ピアノを習うと脳細胞が増える(米・ハーバード大学研究グループ)
② 音楽がIQ(知能指数)を高める(カナダ・トロント大学シュレンバーグ教授)
③ 楽器の演奏が英語と理数系科目の成績を上げる(カナダ・ブリティッシュコロンビア大学)
④ 音楽で文章読解力が身に付く(フランス・エクス・マルセイユ大学ベッソン博士)
⑤ 楽器練習は集中力を高める(米・バーモント大学ハジアク教授)

上記のほかに興味をひくのは、「語学習得能力が高まる」ことです。英会話教室のような静かな場所で語学を習得しても、海外に行くと、空港カウンターやタクシーの中などでは雑音が多く、ヒアリングに苦労します。それがピアノに限らず楽器(声楽は除く)を練習することで聞き分けられるようになる、との研究報告があります。

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