一色清の「このニュースって何?」

経済安全保障推進法が成立 → 経済安全保障って何?

2022.05.20

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一色 清
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日々のニュースの中に「学び」のきっかけがあります。新聞を読みながら、テレビを見ながら、食卓やリビングでどう話しかけたら、わが子の知的好奇心にスイッチが入るでしょうか。ジャーナリストの一色清さんが毎週、保護者にヒントを教えます。(写真は、参院本会議で、経済安全保障推進法案について小林鷹之経済安保相〈右手前〉の答弁を聞く岸田文雄首相=4月13日午前10時20分、国会内、上田幸一撮影)

中国の脅威に対抗、産業力強化

経済安全保障推進法が5月11日に成立しました。とても大事そうな名称の法律ですが、「経済安全保障って何?」という入り口でひっかかってしまい、この法律をしっかり理解できている人は多くないと思います。実は法案を提出した責任者である岸田文雄首相自身が国会で「多岐にわたる新しい課題で(経済安全保障の)明確な定義はない」と答弁しています。わたしたちが「経済安全保障って何?」と感じるのは当然なのです。ここでは、わたしが考える「この法律ができた二つの理由」と「できたことによる二つの心配」を書きますので、そこから経済安全保障のおおよそのイメージをつかんでください。

法律の柱は、四つあります。①半導体などの重要物資を安定的に確保する供給網(サプライチェーン)の強化②サイバー攻撃に備えた基幹インフラ(電気、鉄道など14分野)の事前審査③宇宙や量子などの技術の官民協力④原子力や高度な武器に関する大事な技術の特許非公開、です。どれも日本の産業や技術や情報を外国から守ることを目的にしています。

この法律ができたもっとも大きな理由は、中国の脅威に対してアメリカと足並みをそろえて対抗するためです。中国は軍と民間企業が密接な関係にあり、民間の先端技術を積極的に軍事面に取り入れてきました。これを警戒したアメリカのトランプ前政権は2019年、中国の通信大手、華為技術(ファーウェイ)に向けた半導体の輸出を禁じました。ファーウェイが中国軍の影響下にあるため、機微な情報が抜き取られて中国軍に利用されかねないと判断したためです。

アメリカは21年にバイデン政権になりましたが、中国に対する警戒心は変わらず、日本にも中国を警戒するよう求めていました。日本でも以前から、中国企業が日本企業を買収したり、日本の技術者が中国企業に引き抜かれたりすることに「技術や情報が流出する」と警戒する声がありました。

さらに、コロナ禍でマスク不足が起こったことも日本の中国依存への危うさを見せつけました。日本で使うマスクの大半が中国で生産されていたため、急な増産ができなかったのです。こうしたことから、日本も大事な分野では中国と一線を画す必要があるということで、法案づくりが始まりました。

もう一つの理由は、日本の産業力を強化するためです。日本は20世紀終盤には先端技術分野でも世界のトップクラスの産業力を持っていました。半導体では、1988年には日本企業のシェアが世界の50%を超えていました。しかし、2019年にはそれが10%にまで下がっています。日本の代わりにシェアを伸ばしたのが、アメリカ、韓国、台湾などです。蓄電池も、かつては日本の得意分野でしたが、今では中国に追い越されています。

日本の産業力が落ちてきたのにはいろいろな理由がありますが、この法律からは政府が本腰を入れて関わらなかったことが一因という考えがうかがえます。半導体、医薬品、レアアース、蓄電池といったこれからの社会でますます必要になってくるものについては、政府がもっと関与する方向を打ち出したのです。政府は半導体産業を支援する6千億円規模の基金をつくり、台湾の半導体メーカーが熊本県につくる大規模工場などに資金を使うことにしています。

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