一色清の「このニュースって何?」

経済安全保障推進法が成立 → 経済安全保障って何?

2022.05.20

author
一色 清
Main Image

対立を加速させる懸念

中国への脅威と先端産業の復活という二つの理由はそれぞれもっともだと考える人が多いと思いますが、先行きが心配な点もあります。ひとつは、自由な企業活動が制約されて、産業力がかえって落ちる結果になりはしないかということです。官民一体となった場合、意思決定が遅くなったり、経済合理性から外れたことを強いられたりする可能性があるからです。

日本は戦後、通商産業省(今の経済産業省)が強く関わる形で産業を成長させてきました。企業側には「箸の上げ下ろしまで指導される」という表現があるほどでした。ただ、実際には通産省と距離を置いた経営者がいた企業が大きく成長したという面があります。ソニー、ホンダ、ダイエーなどがその典型です。

民間企業の経営に政府がどこまで関わるのがいいのか、ということの答えはありません。ただ、民間企業が政府の方を向いて仕事をするようになると、効率が悪くなるのは間違いありません。また、民間企業が政府の補助金を当てにするようになると民間の活力はなくなっていきます。

この法律が具体的にどう運用されるのかは、これからの政令や省令次第になっています。企業にとっては、その政令や省令をいち早く知りたいところです。そのために政府の考えを知るパイプ役として官僚の天下りの受け入れに積極的になるでしょう。官僚にとっては悪い話ではないでしょうが、時代に逆行する流れを感じさせます。

もう一つは、大きな話になりますが、世界の対立を加速させるのではないかという心配です。冷戦の崩壊後、世界経済のグローバル化が進みました。人、モノ、カネが国境を越えて自由に移動し始めました。そうした経済の世界的ネットワークが発達すればするほど、世界の結びつきは強くなり、戦争への抑止力になると考えられていました。日本と中国との関係も、人、モノ、カネの結びつきが強くなることで友好が深まると考えられていた時期がありました。しかし、その見方ははずれ、今はアメリカと中国との激しい対立の中で、日本はアメリカと一体となって中国と対立する形になっています。この法律ができたことで、その構図がいっそうはっきりしたことになります。

「第2次世界大戦の前に世界はブロック化した」と歴史で学びました。アメリカ、イギリス、ドイツ、日本などがそれぞれの経済圏をつくり、対立したことです。それが戦争の下地を作りました。今は大きくアメリカと中国が二つのブロックになって対立しています。ロシアのウクライナ侵攻にかくれて、この対立は見えにくくなっていますが、いずれ世界の大問題として再びあらわれてくるはずです。日本はアメリカと足並みをそろえるだけでなく、二つのブロックの対立をやわらげる役割を果たすことができればいいのですが、どうなるでしょうか。

バックナンバー
新着記事
新着一覧
新着一覧

ページトップ