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問題【国語】谷崎潤一郎『旅のいろいろ』

2022.05.23

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40都道府県から生徒が集う西日本有数の予備校・高松高等予備校と朝日新聞が、高校受験に役立つページを用意しました。各教科の問題と解答はもちろん、各問についての解説も充実していて、手応えはバツグン。保護者の皆さんも中学生向けと侮らず、ぜひお子さんとチャレンジしてみてください。

問題 次の文章を読んで、あとの問いに答えよ。

けだし、旅行を出来るだけ快適なものに、――自分の家にいるのと少しも違わないような、安楽な、アット・ホームなものにすると云うのが近代的な考え方であるとすれば、旅館側が精々そう云う注文に篏(は)まるような設備を競うのは当然だけれども、われわれとしては、①可愛(かわい)い児(こ)には旅をさせろと云った風な舊(ふる)い考えをも捨てるべきではないと思う。そうして旅に出たのを機会に、美食とか、朝寝坊とか、運動不足とか、その他の悪い習慣を矯正する、せめて旅行の間だけでも贅沢を云わないようにして、困難に耐える習慣を養うべきである。私などは、職業上気分の転換や、環境の変化を求め、ときどき自分と云うものを日常生活の連鎖から切り離してしまう必要があるので、そんな目的から旅に出る時は、しばしば服装や名を変えて、汽車や汽船を三等にしたり、安宿に泊ってみたりすることがある。実際、私のような職業の者は、田舎へ行くと、宣伝の道具に使われたり、新聞記者や文学青年に物好きな眼(め)で見られたりする恐れがあるので、そのくらいに用心しないと孤独の旅が出来ないのである。それに、姓名や身なりを取り変え、全く別な人間になって廣(ひろ)い世間に出てみると云うことは、それだけで一つの興味である。ぜんたい私ははにかみ屋のせいか、小説家と云うことが分(わか)って先生扱いをされたりすると、何だかキマリが悪くなって鯱硬張(しゃちこば)ってしまう癖があるので、かたがた変名で出かける方が、行く先々で自由に人と話が出来るし、思わぬ道連れが見付かるのである。そう云う意味で、私は船の三等へ乗ることが大好きである。洋行などの長い航海なら知らぬこと、紀州や内海の船旅に一等船室へ乗り込んだ日には、船長や事務長などと挨拶したり、同室の客と名刺の交換をするだけでもうるさいことだが、三等船客の中に交(まじ)って入れ込みの大部屋にころがっていれば、誰も構ってくれてがないから、実にのんびりしたものである。そう云う時、私は自分の左右にいる田舎のお爺(じい)さんやお媼(ばあ)さんや、暇を貰(もら)って故郷へ帰って行くところらしい若い女中などの世間話に耳を傾け、気が向けば進んで話相手にもなるが、大阪や阪神沿線には四国辺から女中奉公に来ている者が多いと見えて、別府通いの三等に乗ると、しばしばそう云う乙女の一団と一緒になる。だが、考えてみると、ときどきこう云う三等旅行を試みて②違った世界を覗(のぞ)くことは、敢(あえ)て小説家ばかりでなく、政治家にも、実業家にも、宗教家にも、大いに必要ではないであろうか

(谷崎潤一郎『旅のいろいろ』による。)

問1 ①のように言う趣旨を説明せよ。

問2 ②のように言うのはなぜか。

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