学習と健康・成長

「地理」を暗記科目にしない! 子どもと一緒に世界を面白く見る方法

2022.05.30

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佐々木 正孝
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2022年4月から、全国の高校では社会科で「歴史総合」「地理総合」「公共」が必履修となりました。これまで選択科目の一つだった「地理」は、地形や気候、産業区分や人口を暗記していくイメージが強い科目ですが、どんな魅力があり、体系的に学ぶことでどのような力が身につけられるのでしょうか。予備校で「東大地理」を教え、日本地理学会企画専門委員会の委員としても活動する宮路秀作さんに聞きました。

Shusaku_Miyaji

話を聞いた人

宮路 秀作さん

代々木ゼミナール地理講師・コラムニスト

(みやじ・しゅうさく)代々木ゼミナール地理講師。コラムニスト。日本地理学会企画専門委員会委員。『経済は地理から学べ!』(ダイヤモンド社)が地理学の啓発・普及に貢献したことが評価され、2017年度日本地理学会賞(社会貢献部門)を受賞。『カリスマ講師の日本一成績が上がる魔法の地理ノート』『大学入試 マンガで地理が面白いほどわかる本』(いずれもKADOKAWA)、『改訂版 中学校の地理が1冊でしっかりわかる本』(かんき出版)など、著書は多数。

地理を学ぶと、どんな力が身につく!?

――「地理」と聞くと、地図やグラフを使って気候区分や産業を暗記していくイメージがあります。改めて地理を学ぶことには、どんな魅力があるのか教えてください。

地理には、2通りのアプローチがあるんです。気候や地形といった自然環境から研究していく「自然地理学」、そして経済や文化、歴史から研究していく「人文地理学」です。

地理には、自然と人文を行き来しながら、地球全体を俯瞰する学びがあります。地形学の観点から地下水が出る仕組みを知り、水利に恵まれた立地という自然条件や新田開発といった社会的な条件から集落や都市を考えていく。

つまり、「地球上の理(ことわり)」を学ぶから「地理」なのです。自分が住んでいるところだけを見るのではなく、地球上のあらゆる場所を俯瞰していく。日本から遠く離れた土地でも笑ったり泣いたりしている人たちがいて、稲や小麦を育て、牛や豚を飼育したり、魚を獲ったりしている人たちがいます。そんな土地や人々の営みを知る。いわば地理とは、現代世界を知る科目なのです。

――歴史や公民は現代の社会状況とつながりを感じやすいですが、地理も同じく世界や人類の営みをリアルタイムで知れるということですね。

そうです。私は、地理を学ぶことでも「教養」が身につけられると考えています。教養は知識の引き出しを増やし、いろんな人と会話が成立する礎になります。知識が増えるからこそ、「相手が何を話してくれているのか?」「相手がどの立場で発信しているのか?」を知ることができます。このグローバル時代に、どんな国の人とも話ができる力は教養が裏打ちするものです。

ただ、地理の面白さを知るためにはある程度の原理・原則を理解しておかなければなりません。「なぜ雨が降るのか?」「雨が降るとどんな農牧業や林業が盛んになるのか?」、前提条件を知ることから、理解は始まります。

これが例えば歴史なら、人の動きをクローズアップするわけですから、絶対的な正解はありません。解釈が存在します。歴史上の人物がなぜそのように行動したのか、その真意はわかりません。そこに十人十色の解釈が生まれ、自分で考える楽しさが生まれてくるのだと思います。地理は前提となる知識が必要ですから、そこで「面白くない」と思われてしまうのかもしれません。私自身、中学生までは地理があまり好きじゃなかったですね。それまでは「暗記する」という方法論で教わっていましたから。

――それは意外です。宮路さんが地理にハマったきっかけは何だったんですか?

高校生の頃に地理担当の先生から、原理・原則のヒントを学び、初めて「地理って面白い!」と感じたんです。

イギリスで発展した繊維工業の違いが、その気づきになりました。西部のランカシャー地方では綿工業、東部のヨークシャー地方では羊毛工業がそれぞれ発達しました。これをランカシャー地方=綿工業、ヨークシャー地方=羊毛工業とだけ暗記するのでは、中学までの学びと同じです。先生は、そこで産業が発達した土台となる自然環境について教えてくれたんです。

グレートブリテン島が位置する緯度帯では偏西風(緯度30~70度付近を吹く西寄りの恒常風)が吹いてくるため、西部にあるランカシャー地方は風上側となって雨が多く、湿度が高い。一方、ヨークシャー地方は風下側となって降水量が少なく、湿度が低いのです。綿製品は湿度が低いと切れてしまいがちですので、乾いた場所での製造には向いていません。そして、セーターを洗濯機で丸洗いしないことからも分かるように、羊毛は湿度が高いと縮んでしまうため、湿度が低いところで羊毛工業が発達する傾向があります。

偏西風がもたらす降水量、湿度の違いによって、グレートブリテン島の東西で繊維工業の発達がガラリと変わる。このメカニズムが腹に落ちたら、違う地域でもこのような原理・原則があるはずだと、想像するようになりました。そこから、地域を一つひとつ、いろんな切り口で見ていくようになり、地理が面白くてたまらなくなりました。自発的に疑問を覚え、それを自ら解決していく姿勢が身についたといえます。

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