ピアノの力
ピアノが教えてくれる、本当に大切なもの(中) ピアノは受験の役に立つ! あなたの「強み」を作ろう
2022.06.07

③ 実際の受験で、演奏やその実績が使える
最後は、ストレートに受験に役立つお話です。拙著「『ピアノ習ってます』は武器になる」(音楽之友社)で紹介したケースから、受験に役立つ具体例をいくつかお示しします。
ひとつは、ピアノの演奏が使える学校が出てきていることです。例えば立教池袋中学校(東京都豊島区)には、口頭発表、芸術、英語、体育の中から自分で選んで自己アピールするAO入試があります。多くの受験生が音楽を選択し、ピアノやギターで受験に臨んでいます。最近では、中学受験でも自己プレゼンテーション入試やポテンシャル入試など、独自の方法を導入する学校が増えてきています。ピアノを活用できる可能性は広がっていきそうです。

さらに、「演奏の成果・実績」が入試で使えることもあります。例えば早稲田大学本庄高等学院(埼玉県本庄市)。「α選抜」(自己推薦入試)があり、多くの生徒がピアノの実績をアピールして合格しています。私が取材したピアノ教室では、先生が積極的にコンクールに参加するよう働きかけ、実績を自己推薦書でどうアピールするかまで指導されていました。取材当時(2021年3月)の話では、「最近6年間で7人が受験し全員合格!」とのことで、大変驚きました。
もちろん、早稲田大に直結する高校ですから、「中学の内申書が3年次に9科目合計45点中40点以上」など、厳しい受験資格をクリアする必要があります。その先の勝負で、ピアノがものをいうわけです。逆に勉強ができても、他のアピール材料が少ない方には厳しい入試と言えそうです。
さらに大学入試では、音楽の実績はかなりの有効性を発揮します。表に受験で音楽が役立つ主な大学・学部をまとめてみました。実績の優劣のみではなく、現在努力していることを入学後の学びにどう活かすかをみる大学もあるようですから、コンクールへの連続出場回数などはアピールポイントになりえます。詳しくは各大学のホームページをご覧ください。

これまで、受験とピアノは、時間を奪い合う対立軸の中で語られることが多かったかもしれません。しかし、決してそうではありません。ピアノをうまく味方につけることで、受験で大いなる「武器」を身にまとうことができるのです。ピアノを習う過程では、挨拶や言葉遣いなどの礼儀、壁を乗り越える力、忍耐力、孤独への耐性など、社会人になる際に必要な多くの力も身に付きます。
受験の先にあるもの 「あなたの強みは?」
さて、受験では「総合点(あるいは平均点)をどう高めるか」「苦手科目をどう克服するか」が重要な課題ですが、社会に出ると「あなたの強みは何か」「それをどう磨くか」がより重要になります。「経営学の父」といわれるP.ドラッカーは「明日を支配するもの」(ダイヤモンド社)の中で、「何事かを成し遂げられるのは、強みによってである。弱みによって何かを行うことはできない。もちろん、できないことによって何かを行うなど、到底できない」と言っています。
30年間のサラリーマン生活を終えた私にとって、この言葉は特に身にしみる言葉です。ピアノでもデザインでも、何か強みがあれば、サラリーマン生活も随分変わっていたと思います。強みの発揮こそ、成果につながるのです。
この言葉は、日本の学校教育の問題点をあぶり出した言葉とも捉えられそうです。英数国理社などの授業時間はほぼ決まっていて、高校で文系・理系に分かれるまで、選択の余地はあまりありません。これでは自分の強みに気付きにくいと思いますし、いわゆる「エッジの利いた人材」は育ちにくいのではないでしょうか。
その点注目されるのが、角川ドワンゴ学園が運営するN高、S高です。ネットをうまく活用し、好きなものに熱中できる時間を大幅に増やした工夫が受け入れられ、開校6年間で両校合わせた生徒数は2万人を超えました。しかも、日本一の規模を誇るピアノコンクール、ピティナ・ピアノコンペティションの最上級クラスである特級(年齢制限なし)では、20年度の2位、そして21年度の1位(グランプリ)が、ともにN高の1年生だったのです。
高校生が入賞すること自体が珍しい中、同じN高から2年連続入賞となり、関係者は騒然となりました。この出来事は、今後の学校教育のあり方を変える前奏曲のように感じます。ちなみに両校は、ピアノに限らずスポーツや囲碁などでも、多くの成果をあげています。
お子さんの教育は、「受験突破!」ばかりが目的ではありません。受験によってお子さんにとって大切なものが置き去りにされていないか、という点にも注意が必要でしょう。さまざまな力が身に付くピアノの学びは、その注意喚起に最も役立つのではないかと感じています。