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日大事件の背景にあるもの 「大学改革の当然の帰結」と紅野謙介・日大特任教授が考える理由

2022.06.29

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石田 かおる
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権限の集中した大学トップが独裁体制を敷き、事件を起こしたり、学内に対立を生んだりするケースが相次いでいます。前理事長が所得税法違反の罪に問われ、有罪が確定した日本大学はその一つ。今年1月まで3年間、日大の理事と学部長を務め、前理事長下の大学運営をドキュメントとして本にまとめた紅野謙介特任教授は「日大の事件を個人犯罪と捉えてしまうと、根本的な解決は図れない」と話します。日大は7月から、作家の林真理子さんを理事長とする新体制がスタートします。日本の大学のガバナンス(統治)にいま必要なことは何か。紅野さんに聞きました。(写真は、日大本部)

紅野謙介さん

話を聞いた人

紅野謙介さん

日本大学特任教授

(こうの・けんすけ)1956年、東京都生まれ。早稲田大学大学院文学研究科博士課程中退。専攻は日本近代文学。麻布中学高校教諭を経て、87年、日本大学へ。2019年1月~22年1月、文理学部長兼理事。著書に「職業としての大学人」(文学通信)、「国語教育の危機 大学入学共通テストと新学習指導要領」「国語教育 混迷する改革」(共にちくま新書)など。

――日本大学は昨秋、田中英寿前理事長や元理事が逮捕される事件で、大きく揺れました。元理事らは大学の事業費を私的に流用させたりした容疑で起訴され、前理事長は業者からのリベートなど約1億2千万円の収入を申告せず約5千万円を脱税したとして、所得税法違反の罪に問われ3月、有罪判決が確定しました。7月から日大は、林真理子さんを理事長とする新体制がスタートします。紅野さんはどうご覧になりますか。

林さんは知名度が高く、イメージの刷新ができる、余人に代えがたい存在だと思います。新理事長には大学経営の実績のある方が就く選択肢もあったと思いますが、イメージ回復に時間がかかると学生獲得の面で苦しくなる懸念もありました。

林さんは、大学運営の経験がないため慣れないことも多く、大変かと思いますが、優れたブレーンをそろえ日大の改革を進めていくことを大いに期待したいです。

日大の新たな理事長に就く作家の林真理子さん(中央)。右は末松信介文部科学相、左は加藤直人理事長=2022年6月3日、東京・霞が関の文科省、山本裕之撮影
日大の新たな理事長に就く作家の林真理子さん(中央)。右は末松信介文部科学相、左は加藤直人理事長=2022年6月3日、東京・霞が関の文科省、山本裕之撮影

――日大は、2018年5月に起きたアメリカンフットボール部の悪質タックル事件の際にも、大学のガバナンスが問題視されました。大学の対応は後手にまわり、前理事長が表に出て説明することもありませんでした。紅野さんは事件の約半年後にアメフト部の部長に就任。19年1月に文理学部長兼理事に就き、新型コロナウイルス、今回の事件と、次々押し寄せる「危機」と向き合った記録を「職業としての大学人」という本にまとめ、4月に出版しました。本は、東京地検で、理事の一人として聴取を受ける場面から始まります。検事に「なぜこういう事件が大学の中枢で起きたのか、教えてほしい」と尋ねられます。

私は、この事件を前理事長と元理事らの「個人犯罪」として捉えてしまうと、本質を見誤ると伝えました。前理事長や元理事が起こした犯罪は許されることではありませんし、私も前理事のひとりとして責任の一端を感じています。

しかし、この事件は、国がこの20年間、推し進めてきた大学改革の当然の帰結として起きたものだと私は考えます。04年に国立大学が法人化され、私立学校法も改正されました。トップダウン型の「ガバナンス改革」を推進するため、教授会による権力チェックを弱め、中央集権と権力の一元化を進めてきました。政財界の改革モードがそれをさらに助長しました。

改革導入時に、大学トップの暴走を防いだり、リコールできたりするような仕組みも本腰を入れて作るべきでした。自己評価や自己点検レベルにとどまるものは効力を持ち得ませんでした。こうして、違法行為ができる素地が作られました。

国は、その後もトップダウン型のガバナンス改革を進めてきていますが、見直しが重要です。それをしないと今後も第2、第3の事件は起こるでしょう。日大の事件は氷山の一角にすぎないと思います。

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