東大生と起業

東大・渡辺努教授「変わる東大生の意識、課題は親の昔流の価値観」

2022.07.15

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中村 正史
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中央官庁や大企業にキャリアを託してきた東大生の志向が変わり、起業したり、スタートアップ企業に入ったりすることが、一つの選択肢になっています。渡辺努・東大大学院経済学研究科教授(前経済学部長)は自らも起業経験があり、ゼミの学生らに「外資系の人気企業に行くより起業すればいいじゃないか」と「起業の勧め」を説いてきました。渡辺教授に東大生の意識の変化や、日本経済が停滞する理由、日本の教育に求められるものなどを聞きました。(写真は、渡辺ゼミの出身者の平井瑛さんが起業したestieのメンバー。前列中央が代表取締役CEOの平井さん)

渡辺努

話を聞いた人

渡辺努さん

東京大学大学院経済学研究科教授、株式会社ナウキャスト創業者・技術顧問

(わたなべ・つとむ) 東京大学経済学部卒、日本銀行入行。1992年ハーバード大学Ph.D(経済学)。99年一橋大学経済研究所助教授、2002年同教授。11年東京大学大学院経済学研究科教授。19年4月~21年3月経済学部長。専門はマクロ経済学。物価と金融政策を研究テーマにしている。黒田東彦・日銀総裁が6月に「家計の値上げ許容度も高まっている」と発言し批判を受けたが、渡辺教授の調査が元になっていた。

ゼミ生の1学年10人中1人は起業する

――渡辺ゼミの卒業生で、不動産テックベンチャーの「estie(エスティ)」を起業した平井瑛代表取締役CEO(31)が、「『大企業に行くのではなく、自分で事業をやってみなさい』と渡辺先生からよく言われたことが頭に残っていた」と言っています。学生にこういう話をよくしているのですか。

私は2015年にビッグデータで日本経済を分析する「ナウキャスト」を起業し、14年から準備に入っていました。ちょうどその頃、ゼミ生だったのが平井君です。

私は1982年に東大経済学部を卒業しましたが、その頃はよくできる人は大蔵省(当時)か日銀、その次に銀行に行っていました。日本興業銀行などがあった時代です。

最近は外資系金融やコンサルが人気ですが、当時は全く人気がありませんでした。2011年に東大の教授になって学部生を教えるようになり、私が学生だった頃とはだいぶ違うなと感じました。官僚は天下りが批判され、不祥事が続いて魅力がなくなっており、銀行もいろいろな問題が出てきて、人気がなくなっていました。逆に私たちの頃は考えもしなかった外資系金融やコンサルの人気が出ていました。

せっかく国立の大学に入ったのに、外資系に行くのかよ、と思いました。外資系でいくら利益を出しても、国には入りません。個人の収入にはなっても、日本国に還元されないことが癪(しゃく)に障りました。それで学生に「外資系に行ってくれるな」と言ったら、学生は「じゃあ、どこに行けばいいんですか」と言います。それで改めて考えました。

私はハーバード大学大学院で学びましたが、接点があった学部生を見ていると、よくできる学生は起業します。起業に悲壮感を持っているわけではなく、仮に失敗しても何とかなる、と軽い感じで起業していました。自分の能力に自信があるからです。

翻って東大生のことを考えると、もともと能力が高いので、起業しても成功する可能性があります。仮にベンチャーを起こして4、5年やってみて成功しなくても、企業がその経歴を評価してくれれば、巻き返しができます。キャリア上のリスクはないのだから、自由な発想で起業していいんじゃないかと、学生に話してきました。

そして学生にベンチャーキャピタルや、創業したナウキャストの幹部を紹介するなどして、学生がいろいろな人に会える環境をつくりました。

――東大は様々な起業家教育やスタートアップ支援を行っていますが、関わってはいないのですか。

私は関わっていません。私の立場は、3、4年生で1学年10人のゼミを持ち、週1回、長時間議論し、合宿に行き、飲みに行くこともある、一番身近な大人です。その私が言う言葉は説得力があるはずです。1学年10人の中に起業する人が毎年1人はいます。

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