学習と健康・成長

“寄り目”が固定する「急性スマホ内斜視」になる10代も デジタル時代の目のリスクに注意を

2023.05.22

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小林 香織
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左右、あるいは片目が寄り目の状態で固定されることにより、モノが二重に見える「急性内斜視」。近年、スマートフォンやゲーム機など近くのものを見続けることによって、急性内斜視を発症する子どもが増えている恐れがあります。眼科医で医学博士の川本晃司さんは、スマートフォン利用が原因の急性内斜視を「急性スマホ内斜視」と名付け、警鐘を鳴らします。この病気の症状や治療法、予防法について聞きました。

Koji_Kawamoto

話を聞いた人

川本 晃司さん

眼科医/医学博士

(かわもと こうじ)1967年、山口県生まれ。産業廃棄物処理の日雇い労働に従事していた26歳の時、目のケガをきっかけに医師を目指し28歳で山口大学医学部に入学。34歳で医 師免許を取得し眼科医となる。山口大学で医学博士号を取得後に、かわもと眼科を開業。2021年には北九州市立大学ビジネススクールでMBAを取得。MBAの同期生で結成したNPO法人の副理事長として、北九州市内で「子ども食堂」活動をしている。著書に『スマホ失明』(かんき出版)がある。

「急性スマホ内斜視」の症状は? 社会的・機能的な失明に陥ることも

ーー「急性スマホ内斜視」とは、どのような病気でしょうか。

まず「内斜視」とは、左右の眼のどちらか、または両方が内側を向いている状態、つまり寄り目になっている状態を指します。内斜視を発症すると左右の視線が交差し、ピントを合わせられなくなり、モノが二重に見えるようになります。ひどくなると、歩くのも困難な状態になることもあります。

この内斜視の中で、スマートフォンを長時間見続けることによって起こる急性症状のことを「急性スマホ内斜視」と私は呼んでいます。一般的な医学用語とは異なりますが、近年この症状で受診する10代の患者が増加しているため、特別に名前を付けています。

ーースマートフォンをどのくらい長時間見続けると、「急性スマホ内斜視」を発症しやすいのですか。

明確にはいえませんが、韓国の論文では「連続して7〜10時間スマートフォンを使用すると発症しやすいと考えられる」と報告がありました。10歳〜35歳までの急性スマホ内斜視の患者は、いずれも連続して7時間以上スマートフォンを使用していたそうです。

当院を受診した14歳の中学生のケースでは、以前からスマートフォンを長時間使用する傾向があり、1週間使用を中止していた期間がありました。ただ、その反動から連続して10時間以上使用した翌日、朝目覚めたら立ち上がれない状態になっていたそうです。

ーー発症前に予兆はないのでしょうか。

おそらく発症前に眼の不調には気がつくと思いますが、一晩休めば元に戻ったり、症状が緩和されたりするので、「まぁいいか」と放置してしまうのでしょう。眼の不調を保護者に伝えるとスマートフォンを取り上げられてしまうので、そうなるぐらいなら我慢してしまうのだと思います。

ーー「急性スマホ内斜視」を発症した場合、どのような治療をするのでしょうか。

第1のステップとして、スマートフォンの使用を禁止します。スマートフォンに限らず、近くでものを見るのをなるべくやめてもらいます。加えて、光を屈折させる「プリズム眼鏡」という特殊な眼鏡を使って、治療するケースもあります。それでも症状が改善しない場合には手術を施しますが、完全に元通りにならず、二重に見える症状が残ることもあります。

そうなると、まったく見えない「医学的失明」ではなくとも、社会生活を送るうえで不都合が生じる「社会的失明」や、一時的あるいは部分的に見えないことで社会的に「見えない人」として扱われる「機能的失明」に該当するでしょう。

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