スクールリポート

映画「長崎の郵便配達」から考える、戦争と平和 田園調布学園の中高生が川瀬美香監督とディスカッション

2022.08.08

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市川 理香
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田園調布学園中等部・高等部(東京)では、高等部1年の3月に学習体験旅行で熊本(水俣)と長崎を訪れ、環境や平和、国際関係について学んでいます(2021年度高等部1年生の旅行は22年9月に延期して実施予定)。長崎では、原爆資料館の見学や被爆者の語り部の方からのお話を聴くなどの体験を続けてきました。この夏に生徒たちが出会ったのは、ドキュメンタリー映画「長崎の郵便配達」(8月5日から全国公開)と川瀬美香監督。7月22日、川瀬監督とともに戦争と平和について議論しました。

事前に鑑賞して監督とディスカッション

ドキュメンタリー映画「長崎の郵便配達」は、長崎で郵便配達中に被爆し、2017年に亡くなるまで核兵器廃絶を訴え続けた谷口稜曄(すみてる)さん(1929―2017)と、谷口さんを描いたノンフィクション『THE POSTMAN OF NAGASAKI』の著者で、元英国空軍大佐のピーター・タウンゼンドさん(1914―1995)との交流を描きます。タウンゼンドさんの娘、イザベル・タウンゼンドさんが、父の著書を頼りに、父と谷口さんの足跡をたどる物語です。

映画完成後、川瀬監督は2人からの平和のメッセージを受け継ぐ思いで、長崎の高校生と交流を続けてきました。そしてこの7月、全国公開に先立ち、田園調布学園の中高生16人と川瀬監督が平和についてディスカッションをすることになりました。

撮影中に浦上天主堂で折り鶴を見つけて近づくイザベルさん ©︎坂本肖美
撮影中に浦上天主堂で折り鶴を見つけて近づくイザベルさん ©︎坂本肖美

生徒は事前に本編を鑑賞して、感想などを書いたワークシートを提出していました。そこには、「自分の体の中から湧き上がる言葉」がつづられており、川瀬監督の予想を軽々と超えていたといいます。

その中で多かったのが、「なぜ、この映画を作ったのですか?」という質問。答えとして、川瀬監督は自己紹介を始めました。CM制作会社の助監督を経て世界を放浪、やがてドキュメンタリー映画の監督に至った理由を「自分が何者か知りたいがため」と説明。『THE POSTMAN OF NAGASAKI』と谷口さんを知ったこと、イザベルさんと出会ったこと、語り部との出会いなどから、「自分だったら何ができるか」と考えた結果、この映画を作ることにたどり着いたという話に、中高生はグッとひきつけられたようでした。

会は、生徒がワークシートに書いた内容から、川瀬監督が「この部分をもう少し詳しく教えてほしい」と問う形で進みました。

ワークシートの質問(一部)

■谷口稜曄さん、ピーター・タウンゼンドさんから、どんなメッセージを受け取ったと感じますか?
■あなたにとって「平和」とはどういうことですか? 映画を観(み)て、考えに変化はありましたか?
■今年2月に始まったロシア・ウクライナ間の衝突で、世界は再び現実的な「核の脅威」に直面しています。今、そしてこれからの世界について、核、戦争、平和といった観点から、どのように思いますか?
■日本で戦争を経験した語り部の方々が、徐々にいなくなっている時代です。これからの世界を生きる皆さんが、自分自身で、この映画から受け取った平和のメッセージを伝えたいと思う人は浮かびますか? また、伝えるとしたらどのようなメッセージでしょうか?

平和について考え、自分の言葉で語る

「あなたにとって平和とは?」という問いに見事に答えている、と指名されたのがKさん(高2)です。

「平和って言語化しにくいのですが、私にとって平和とは、勝手に作られるのではなく、自分たちで一から築き上げるものだと思います。平和な世の中になるためにどうすればいいかを世界中の一人ひとりが考えていけば実現できるのではないかと思いました」

Kさんはワークシートに、「ありきたりな言葉でしか表現できない」と書いていました。川瀬監督から、「ありきたりな言葉で表現してください」と声をかけられ、大切なのは自分の言葉で伝えることなのだ、ということをかみしめていたようです。

映画の感想を聞かれたIさん(高1)は、「戦争が題材の映画の内容は、激しいものだと思っていましたが、この映画からは人の温かさを感じました」と語り、「郵便配達みたいに映画を送り合うこと」をメッセージとして受け取ったと話しました。川瀬監督は「そこをキャッチしてくれて、ありがとう」。

「教科書ではわからないことがある。映画は、海外の人から見た長崎を描いていることが新鮮だった」と語ったのはNさん(高1)です。「日本に住んでいれば、広島や長崎の原爆のことはみんな知っています。でも、これは戦地に駆り出されたわけでもない、一人の郵便配達員だった谷口さんの身に起こったこと。教科書だけではわからないことがあると知りました。海外の人であるイザベルさんが、原爆や戦争で起こったことを知ろうとしていることや、原爆についてどう考えているかを知ることは興味深く、世界に戦争を引き起こさないために必要なことだと思いました」

映画は英語で制作されました。川瀬監督はその意図を「日本以外の国の人にも伝えたいから」と話しました。

生徒それぞれ、印象に残ったシーンを話す時間もありました。

Mさん(中1)は、知識として戦争は知っていても、谷口さんの背中の火傷や、日常生活が壊される映像に、「改めて戦争は怖いと思った」と話しました。

Sさん(高2)は、英国軍人だったピーター・タウンゼンドさんと被爆者である谷口さんが、通訳者抜きで話して歩み寄ったシーンが印象的だったといいます。「自分だったら許すことは難しいし、拒絶してしまうと思います。でも谷口さんはそうせず、対話を選んだのがすごいと思いました。対話は、どちらか一方が拒否したら終わりですが、どちらも関わり合おうとしていて、それができた2人はかっこいいと思いました」

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