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「マッチョ」も学ぶ男性視点のジェンダー 立命館大学中村正ゼミ

2022.08.17

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鈴木 絢子
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◇中村正教授/立命館大学産業社会学部現代社会学科社会病理学・臨床社会学

「ジェンダー」の研究は男性のあり方を視野に入れるべき時代。立命館大の中村正教授のゼミでは、男女問わず学生自らの体験を通じ、社会課題としてのジェンダーを研究している。写真は中村正教授と学生たち。ゼミでは各学生の発表に対し、教授や学生からも活発に意見が出される。自由な雰囲気が印象的だった(写真/楠本 涼)

本来「ジェンダー」とは社会的・文化的な性差を指す言葉で、男性にとっても無関係なものではない。だが女性研究者比率が2割に満たない日本で、ジェンダー問題を扱う研究者は女性が多いのが現状だ。

中村正教授は1980年代から「男性の暴力」をテーマに、男性視点からジェンダー研究に取り組んでいる。脱暴力への加害者臨床も展開しながら、夫婦別姓を実践するなど、個人の生き方を縛るジェンダーへの疑問を持ち続けてきた。

中村教授が担当するゼミでは、社会病理全般をテーマとしているが、やはりジェンダーに関心がある学生が多く集まっている。

「ゼミ生の男女比は半々です。文献や資料だけに頼るのではなく、社会問題をパーソナルな体験と重ねて考えるよう指導しています」

コロナ禍で対面授業ができなかったときは、静止画に学生自身がナレーションをつけてまとめる「フォトボイス」という手法を用い、オンラインでテーマを挙げさせた。

「提出されたフォトボイスから、いま学生にとって何が問題なのか、若者がいかに社会病理の中で生きているかがよくわかりました」

アルバイト先の経験から食品ロスや子ども食堂について考えた学生もいれば、「友人がパパ活をしているようだ」という悩みを主題にした学生もいた。また、自分の男性性の考察をする男子学生も多く、旧来の「男らしさ」と自分らしさとの齟齬をテーマに選んだ学生も。筋骨隆々の「マッチョ」な彼はスポーツ社会専攻で4年生の徳山太一さん。選んだ題材は、「日傘をさす僕」だ。

「中学から柔道を、高校時代はアメフトもやっていました。筋肉はもっとつけたいし、憧れのボディービルダーもいます」

快活にそう話す徳山さんの手の爪は短く切りそろえられ、白のネイルカラーでシンプルに彩られている。肌は自然な白さとなめらかさで、ひげの跡もない。

「僕は爪が割れやすくて、肌も荒れやすいので日焼けやカミソリのダメージを避けたかった。だから脱毛をしたり、日焼け止めや日傘を使ったり保湿したりもしています。でも『ケア』という感覚で自然に始めたことが、想像以上に批判や衝突を生むことを経験しました」

徳山太一さんは、いまの自分でいられる外資系企業に就職する予定。ボディービルの大会で優勝するのも目標の一つだ(写真/楠本 涼)
徳山太一さんは、いまの自分でいられる外資系企業に就職する予定。ボディービルの大会で優勝するのも目標の一つだ(写真/楠本 涼)

徳山さんがもっとも強くぶつかった相手は両親だという。

「クリアネイルをしたときはそうでもなかったのですが、フレンチネイルにして帰った日にもめました(笑)。『筋肉もあるのに男がそんなことをするのはおかしい』『まともな男になれ』と言われ、3日間ぐらい口もききませんでした」

徳山さんはシスジェンダー(※1)でありヘテロセクシュアル(※2)で、彼女もいる。中村教授が指摘するように、「強い肉体という男らしさの象徴的なアイテム」も持っている。だが彼は、台湾の政治家オードリー・タンの「すべての人がマイノリティー」という言葉を引用し、自分を「マジョリティーのはしっこにいる」と表現する。

「同世代の友達も、心の奥底で『男なのになんで』と感じている人もいると思います。否定されることはない分、本音を聞き出せなくなっている気がします」

徳山さんの両親はいまも「まともな息子像」を譲らないそうだが、徳山さんは「卒論を親に見せたら納得してもらえるかもしれない」と笑う。中村教授も「どんどんもめて、上の世代の価値観を変えてほしいですね。自分の経験を通して社会課題に挑戦する姿を見せてもらえれば」と話す。

<注>
※1 シスジェンダー=性自認と身体的性が一致している人、状態。
※2 ヘテロセクシュアル=異性を好きになり、性的な欲求も持つ性的指向。

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