SDGs@大学

「マッチョ」も学ぶ男性視点のジェンダー 立命館大学中村正ゼミ

2022.08.17

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鈴木 絢子
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「このゼミに同窓会が必須」な理由は

「犯罪の加害者は男性が多く、一方で女性は被害者になることが多い。このゼミでは加害に至る暴力性の研究だけでなく、被害のダメージからどう回復していくかということも課題のひとつにしています」(中村教授)

中村教授の言う「ダメージからの回復」について、もう一人別の学生が話を聞かせてくれた。だが彼女の顔も名前も、ここでは出さない。なぜなら彼女の身に起きたことは、まだ全面的に解決されたわけではないからだ。彼女にこのゼミを選んだ理由を聞いた。

「当初は明確な問題意識はなかったし、そもそも『社会病理学』がどんなものか、あまり考えたこともありませんでした。でも自分が被害者になったことで、この経験をもとに、自分に何ができるのかを知りたかったのです」

東京五輪の折、アスリートの盗撮が取りざたされたことを覚えている人も多いだろう。彼女もある活動をしていた際に盗撮され、その写真は違法サイトにアップされた。ショックで活動をやめた友達も何人もいたし、家族にも「あなたもやめたほうがいいんじゃないの」と言われた。だが彼女は「私はやめたくなかった。負けたみたいになるのが嫌だったんです」と語る。

だが、加害者の視点を学んだり対策に取り組んだりしたことが、被害を乗り越える一助になったかと聞けば、そうではないと答えた。

「乗り越えたという感覚ではありません。受け入れるしかなかったと感じます。よく駅などに『痴漢や盗撮に気をつけて』というポスターがありますが、被害に遭う側がそう言われるのではなく、そうした行為をする人がいない社会になってほしいと思います」

彼女は写真がアップされたサイトを削除できないか警察に相談したが、「顔も名前も出されていない」という理由で削除はできなかった。無力感を覚えもしたが、大学の仲間や弁護士などと協力して、活動時の肌の露出を抑えるようにするなど再発防止にさまざまな対策を講じた。

「今後同じ思いをする人がいないよう、やれることはやりました。いまではこのゼミに入ってよかったと思っています」

被害者の心理や、法的な規制はどのようにして可能かについて、この件から学んだことを彼女自身の卒業研究にまとめる予定だという。

学生は「フォトボイス」で挙げたテーマを掘り下げて発表しながら、議論を通じて卒業論文に落とし込んでいく。右が中村正教授(写真/楠本 涼)
学生は「フォトボイス」で挙げたテーマを掘り下げて発表しながら、議論を通じて卒業論文に落とし込んでいく。右が中村正教授(写真/楠本 涼)

同ゼミで扱うのは、すべての人が関係する課題でありながら、明確な正解が存在しないテーマだ。もし、自分の感覚には未来永劫まったく問題がないと信じて疑わないなら、おそらくその感覚こそが最大の問題だといえる。違法サイトの取り締まりひとつ見ても法整備が甘いように、マッチョが孤独を選ぶしかないように、この社会はまだまだ成熟しているとはいいがたいものだ。学生がいま自分なりに出した答えも、時代とともに変わっていくだろう。中村教授は「だからこのゼミには同窓会が必須なんです。数年後、社会に出た学生たちがどう考えているか、どう変わるか。それを知りたいのです」と語った。

【大学メモ】

立命館大学 1869年に西園寺公望が創設した私塾「立命館」が始まりで、2020年に150周年を迎えた総合大学。建学の精神は「自由と清新」。学部学生数は3万3094人(22年5月1日現在)。

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