一色清の「このニュースって何?」

東京工業大と東京医科歯科大が統合協議 → 大学が置かれている状況を知ろう

2022.09.02

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一色 清
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日々のニュースの中に「学び」のきっかけがあります。新聞を読みながら、テレビを見ながら、食卓やリビングでどう話しかけたら、わが子の知的好奇心にスイッチが入るでしょうか。ジャーナリストの一色清さんが毎週、保護者にヒントを教えます。(写真:東京工業大と東京医科歯科大)

背景に「10兆円ファンド」の創設

東京工業大と東京医科歯科大が統合に向けて協議を始めると発表しました。早ければ2024年春の統合を目指しています。両大学とも難関の国立大学であり、隆々としている印象があっただけに、統合計画に驚いた人は少なくなかったと思います。両大学の統合の背景には、日本の大学が今置かれている厳しい状況があります。

両大学の統合に影響を与えているのは、「国際卓越研究大学」の指定とみられています。政府は大学の競争力強化を狙い、財政投融資をおもな原資として10兆円規模の大学ファンド(基金)を創設します。そして、24年度からその運用益をもとに最大で5~7の大学に1年に数百億円ずつを配る予定です。22年12月までにその配布対象となる「国際卓越研究大学」を公募します。国が支出する国立大学の運営費交付金(21年度)は最も多い東京大でも835億円。新たに配布される数百億円という金額は大学にとってとても大きなものであることがわかります。

両大学はそれぞれの研究範囲がそれほど広くないため、「この狭き門に単独で選ばれるのは難しい」と考えたのではないかと思われます。最近の医療は、ロボットによる遠隔手術とか人工知能による画像診断とか通信技術を使った遠隔診療など、理工系の技術を使ったものが増えています。両大学が統合して研究を融合させれば幅が広がり、東京大や京都大などの総合大学に近づくことができると考えるのは自然です。両大学が運営法人だけ一緒にして大学名は別々のままでいくのか、それとも大学名もひとつにする本格統合になるのかはまだわかりません。

より大きな総合大学を目指す動きは、私立大学にもあります。慶応大は08年に共立薬科大を吸収合併して薬学部をつくりました。そして、東京歯科大とは合併して歯学部をつくるための協議を進めています。また、早稲田大は医学部の創設が悲願ですが、新設は認められる状況にありません。そのため、経営が悪化している医科系大学の吸収合併を狙っているという見方があります。早稲田大は「国際卓越研究大学」に応募する意向を示しています。

「国際卓越研究大学」をつくる背景には、日本の大学の国際的評価が下がっていることがあります。イギリスの教育誌タイムズ・ハイヤー・エデュケーションの世界大学ランキング(22年版)によると、日本の大学で上位200位以内に入っているのは東京大(35位)、京都大(61位)の2校だけです。アジアの大学では中国の清華大、北京大、シンガポール国立大、香港大が東京大より上位にいます。11年版では東京大がアジアトップだったほか、京都大、東京工業大、大阪大、東北大が上位200位以内に入っていました。下落の理由は、引用される論文が少ないことなどとされ、研究力が相対的に落ちているという分析になります。

危機感を抱いた政府が考えたのが「10兆円ファンド」です。アメリカのハーバード大やスタンフォード大は大学独自の基金が数兆円あり、その運用益が研究費に充てられています。

「10兆円ファンド」とはいえ、運用益をたくさんの大学にばらまけば成果はかぎられることになるでしょう。そのため、最大で5~7といわれるひと握りの大学に集中して大きな金額を投じようとしているわけです。投じられる大学と投じられない大学との研究格差が広がるのは明らかで、何とか投じられる大学に入りたいという気持ちが今回の統合協議のもとになっているわけです。

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