復活!体験学習のチカラ
コロナ禍で「夢や目標を持つ子」が減少 学校行事など体験で「生きる力」は取り戻せる
2022.10.13

コロナ禍では、学校の行事や家庭での体験活動が減りました。そのことで子どもにどんな影響が出ているのでしょう。子どもの学力や教育政策に詳しい浜野隆・お茶の水女子大教授に聞きました。
(はまの・たかし)専門は学力と教育政策。文部科学省委託の「全国学力・学習状況調査を活用した専門的な課題分析に関する調査研究」の研究代表として家庭の社会経済的背景と学力、非認知能力の関係を分析。共著に「学力格差への処方箋(しょほうせん)」(勁草書房)、「世界の子育て格差」(金子書房)などがある。
「非認知能力」を高める学校行事
――学校の行事や体験活動には、どのような効果があるのでしょう。
学校内外の行事や体験活動には、子どもの「非認知能力」を育む効果があります。非認知能力の定義は様々ですが、読み書き・計算能力とは違う「生きる力」と考えてもらえばいいでしょう。目標を達成するために自分の感情をコントロールする力や、自分を客観視する力も含まれます。非認知能力が高いと認知能力すなわち「学力」も高くなり、社会人になってから仕事の成果を上げやすいというエビデンスがあります。
学校行事というと、多くの人は本番だけを思い浮かべますが、実際は準備の時間を含んでいます。子どもたちは準備を進めながら友達と対話したり、時にはぶつかり合ったりもします。主体的に関わり、何かをつくり、誰かのためになるという機会も多い。それらの経験を通じて自己効力感や自己肯定感、社会に積極的に参加したいという気持ちを持つようになります。行事がなくなると、そのような機会が損なわれてしまいます。
――コロナ前に比べると、行事や体験活動の機会は大幅に減りました。そのことで子どもたちへの悪影響は出ているのでしょうか。
2021年度の文部科学省の全国学力・学習状況調査では、「学校に行くのは楽しいと思いますか」という設問に「当てはまる」と答えた小学生の割合が減りました(下のグラフ)。22年度にやや増加しているのは、21年度にコロナの影響で減った行事や友達との触れ合いが、22年度になって少しずつ回復してきたことによるものだと見ています。「どちらかといえば当てはまる」まで合わせると、22年度は楽しいと感じる子の割合がほぼコロナ前の水準に戻っています。感染防止と両立しながら、学校現場や関係者が努力した結果の現れでしょう。

一方で、「将来の夢や目標を持っている」という子の割合は減ったままで、22年度も戻っていません。学校の内外で人と触れ合ったり、活動に主体的に取り組んだりして自己効力感を得る経験が減ったことが影響しているのではないでしょうか。日本はもともと将来への希望を持っている子どもが少ないのですが、さらに深刻化した印象で心配です。これは学校だけでなく、社会全体で考えていかねばならない問題でしょう。
救いもあります。「人が困っているときは助ける」という回答が増えているのです。社会全体が困難を抱える中で、子どもたちも助け合いの大切さを感じ取っているのでしょう。
――コロナ禍の一斉休校では、学習の遅れへの懸念が強まりました。
教育委員会や学校現場は教科指導の時数を充足し、未履修の内容が出ないよう神経をとがらせてきました。保護者からも「学習の遅れの取り戻し」を期待する強い声が寄せられ、先生たちは教科指導に力を注いできました。学力調査の結果を見る限り、学習面についてはかなりカバーできている印象を受けます。
半面、学校行事は大きな影響を受けました。先生方は学校行事の重要性は認識しながらも、教科指導のほうに目を向けざるを得ませんでした。今後は「教科学習=勉強」「行事や体験活動=勉強からの解放」という二分法から脱却し、どちらも子どもの成長に欠かせない学びの場だという意識をより強く持って対処していくことが重要です。