復活!体験学習のチカラ
修学旅行の代わりにお化け屋敷? コロナ禍の学校行事は「ねらい」を明確に、創意工夫して
2022.10.14

コロナ禍で学校行事が取りやめになったり、内容が変更されたりしています。学校行事にはどんな役割があるのでしょう。文部科学省で特別活動の教科調査官を務める安部恭子さんに聞きました。
(あべ・きょうこ)さいたま市の小学校に勤務後、さいたま市教育委員会、さいたま市立小学校教頭を経て、2015年から文部科学省初等中等教育局教育課程課教科調査官(特別活動)、国立教育政策研究所教育課程研究センター研究開発部教育課程調査官を務める。令和4年4月から文部科学省初等中等教育局視学官、国立教育政策研究所生徒指導・進路指導研究センター生徒指導・特別活動連携推進官も務めている。著書に「みんなの学級経営」1年~6年(東洋館出版)、「特別活動で学校を楽しくする45のヒント」(文溪堂)など。
行事は単なる「思い出づくり」ではない
――コロナ禍で学校行事がなくなったり、内容が変更されたりしています。
学校行事への対応は、学校によって大きな差が出ています。ある学校では、宿泊を伴う修学旅行の代わりにICTを活用してバーチャルで修学旅行を「体験」したそうです。「行事がなくなってかわいそう」という声が強いことから、かわりにお化け屋敷や花火大会をやった学校もあると聞いていますが、学校行事としてのねらいが達成できたのか、疑問です。各学校行事には個々のねらいや意義があります。安易に削減するのではなく、創意工夫して実践することが大切です。
――学校行事のねらいとは。
学校行事は単なる「お楽しみ」や「思い出づくり」ではなく、学習指導要領に教育課程として位置付けられている「特別活動」の内容の一つです。学校や学年などの大きな集団で子供たちが協力して行う体験的な活動のことで、次の5つの種類があります。
(1)儀式的行事(入学式・始業式・終業式・卒業式など)
(2)文化的行事(学習発表会・音楽会・展覧会など)
(3)健康安全・体育的行事(身体測定・運動会・体育祭・避難訓練など)
(4)遠足(旅行)・集団宿泊的行事(遠足・野外活動・修学旅行・集団宿泊活動など)
(5)勤労生産・奉仕的行事(飼育栽培活動・大掃除・地域清掃など)
たとえば(4)の遠足(旅行)・集団宿泊的行事は、「日常とは異なる生活環境で見聞を広め、自然や文化などに親しみ、よりよい人間関係を築くなどの集団生活の在り方や公衆道徳についての体験を積むことができるようにする」というねらいがあります。
各学校行事のねらいや育成を目指す資質・能力を明確にし、学校教育目標や指導の重点、学校や地域の特色などを考慮して、各学校で創意工夫を生かして計画を立てて実践することが大切です。
学校行事はその日限りのイベントではなく、事前から事後までの一連の学習過程を通して資質・能力を育むものです。子供たちがその学校行事の意義やねらいを理解し、目標を立てて取り組み、振り返りを課題解決や次の学校行事に生かすことができるようにします。
学校行事において多様な他者と関わったり、大きな集団の中で役割を果たしたりする中で、子供たちは主体的に思考・判断・実践したり、学年や学級が異なる友達とよりよい人間関係を築いたり、自己有用感を得たりすることができます。
国立青少年教育振興機構による「青少年の体験活動等に関する意識調査」では、社会経済的背景の相違に関わらず、自然体験が多い子供ほど、自己肯定感が高く、 自立的行動習慣が身についている傾向があることが分かりました。2016年の中央教育審議会の答申にも、体験活動を通じて、様々な物事を実感を伴って理解したり、人間性を豊かにしたりしていくことが求められ、学習指導要領改訂のポイントでも体験活動の充実が示されました。そして、学習指導要領の総則で、集団宿泊活動や自然体験活動などの豊かな体験を充実することが明記されました。