復活!体験学習のチカラ
子どもに「本物」で学び、人とつながる体験を 都美術館と東京芸術大がプロジェクト実施中
2022.10.21

美術館や博物館に子どもを連れて行くことに、ハードルを感じていないでしょうか? そのハードルを下げようと、東京都美術館と東京芸術大学は「Museum Start あいうえの」を共同で推進しています。コンセプトは、「すべての子どもにミュージアム体験を」。子どもと大人が文化やアートに出会い、楽しむことを応援するプロジェクトです。(写真は、2022年8月21日に行われた「SDGsで探究!名建築をみる」の様子=写真はすべてMuseum Start あいうえの運営チーム提供)
こうの・ゆみ/武蔵野美術大学大学院造形学コース(現:造形文化研究科美術専攻造形理論・美術史コース)修了。専門はプロダクトデザイン史。2008年東京都美術館着任。公募団体展担当など経て、2013年よりアート・コミュニケーション事業に従事。
こむた・ゆうすけ/東京芸術大学大学院先端芸術表現科修了。絵画作品を中心に制作活動を行っている。東京芸術大学大学院先端芸術表現科助手、上野文化の杜新構想実行委員会プログラムオフィサーを経て、2021年より現職。
美術館や博物館はハードルが高い?
「壁を見てみて!」「あ、小さな穴が開いてる!」
「天井はどう?」「ケーキみたいな電球がぶら下がってるよ」
「この螺旋階段、下から見上げると三角形だ」「どうしてなんだろうね?」
今年8月に行われた、SDGsをキーワードに東京都美術館の建築を探究するプログラム。小学1年生から中学3年生までの子どもたちが、グループに分かれて美術館の敷地内を巡ります。各グループには「とびラー」と呼ばれるアート・コミュニケータがつき、子どもたちと一緒に建物のあちこちをじっくり見て、対話しながら建物に隠された秘密を探っていきます。初対面の子どもや大人に囲まれ、最初は緊張気味だった子どもたちも、次第にほぐれて言葉数も増えていきました。

親子で初めて参加したという都内在住の女性は、「アートや文化は、人間としての深みをつくるものだと思う。将来、世界の人と協働することになったときにも、そうしたものに触れた経験があることはプラスにはたらくのでは。コロナ禍で子どもの体験の機会が減っているなか、こうした誰でも参加できる取り組みがあるのはとてもありがたい」と話してくれました。

「Museum Start あいうえの」(以下、あいうえの)は、2013年に始まりました。東京都美術館はアート・コミュニケーション事業の一環として、東京芸大とともに推進役を担い、上野公園にある九つの文化施設(上野の森美術館、恩賜上野動物園、国立科学博物館、国立国会図書館国際子ども図書館、国立西洋美術館、東京藝術大学、東京国立博物館、東京都美術館、東京文化会館)が連携し、美術、科学、歴史、音楽、動物など、さまざまな分野にわたる多彩なプログラムを実施しています。コンセプトは、「すべての子どもにミュージアム体験を」。参加費は無料で、ファミリー対象の「ファミリー&ティーンズ・プログラム」のほか、学校を対象にした「学校プログラム」、多様な家庭状況や文化背景をもつ子どもたちに向けた「ダイバーシティ・プログラム」があります。
「すべての子どもに」に込めた思いを、あいうえのに携わってきた東京都美術館学芸員の河野さんはこう話します。
「美術館や博物館って、ハードルが高いイメージがあるかもしれません。でもミュージアムは誰もが利用できる文化財の宝庫。世界中から集まった本物を通して、多様な価値観に出会い、考え、学ぶことができる。そんな体験をすべての子どもたちができるようにしたいと始めたのが、あいうえのです」