復活!体験学習のチカラ

子どもに「本物」で学び、人とつながる体験を 都美術館と東京芸術大がプロジェクト実施中

2022.10.21

author
笹原 風花
Main Image

対話を通して感じたことを共有し、人とつながる

あいうえののすべてのプログラムには、アート・コミュニケータ「とびラー」が一緒に参加します。とびラーは東京都美術館と東京芸術大学の「とびらプロジェクト」で活動する大人たちで、年齢も職業もさまざま。子どもたちに寄り添い、安心して活動できる場をつくります。

「本物に触れる体験というのも、ミュージアムを訪れる価値なのですが、本当に大事なのは、それに触れて自分はどう感じたか、ということです。そのモヤモヤした感覚の言語化をサポートするのが、当日の仲間、伴走者として子どもたちに寄り添う、とびラーの役目です」と河野さん。

現在は約130名のとびラーが活動中。学芸員や大学教員らと共に学びの場をもちながら、主体的なプレイヤーとして活動している
現在は約130人のとびラーが活動中。学芸員や大学教員らと共に学びの場をもちながら、主体的なプレイヤーとして活動している

あいうえのが大事にしてきたのが、「人とつながる」という体験です。「同じものを見たり聞いたり触ったりするなかで生まれるコミュニケーションは、何にも代え難い」と河野さんは言います。

「自分の発見に共感してもらえたり、他者の意見から気づきがあったり、自分自身について気づいたり。見るものは同じでも、そこから何を感じるか、どう解釈するかには正解はありません。そして、ミュージアムはどんな声も許容される場所です。そうした空間で、同年代の子どもやとびラーとものを介して対話をすることの価値は、計り知れないものがあると感じています」

また、東京芸術大学の特任助教としてあいうえのに携わる小牟田さんは、「縦のつながり」も大事だと言います。

「ミュージアムは、過去から受け継いだものを未来に残して伝えるという役割を担っています。子どもたちには作品や資料を鑑賞することで、今の時代をともに生きる人たちとの横のつながりと合わせて、縦のつながりとして、過去から現在への時間軸とのつながりも感じ取ってもらえたらと思っています」(小牟田さん)

2022年8月に、認定NPO法人「豊島子どもWAKUWAKUネットワーク」と連携して行った「ミュージアム・トリップ」。展示作品のアートカードを使ったワークショップののち、実際に展覧会を見て回った
2022年8月に、認定NPO法人「豊島子どもWAKUWAKUネットワーク」と連携して行った「ミュージアム・トリップ」。展示作品のアートカードを使ったワークショップののち、実際に展覧会を見て回った

コロナ禍で不要不急の外出の自粛が要請されるなか、あいうえのでも2020年度からオンラインプログラムを取り入れました。現在は、1回目はオンラインで絵画作品に触れ、2回目は実際にミュージアムを訪れるというハイブリッドのプログラムを実施しています。

オンラインによりアクセスしやすくなりミュージアムへのハードルが下がったというメリットはありましたが、オンライン参加ができる環境にない子どもたちは取り残されてしまうという課題もあります。河野さんは「同じものを見て対話をするという“つながり”の部分はある程度作れるという実感が得られた一方で、リアルに目の前の空間に存在する作品を、まなざしを共にする大人と一緒に見ることで生まれる『もっと見たい、知りたい』という探求心を育むことは難しく、更に『うわ!大きい』『なにこれ?!』という本物だからこその迫力は伝えきれない」と言います。「デジタルが当然に存在する生活の中で育っている子どもたちにこそ本物を自分の眼で見て、対話し考える体験をミュージアムでしてほしいと思っています」

オンラインで子どもたちとつながる河野さん。「リアルで会いたいねー!」「次は美術館で待ってるよー!」と子どもたちに呼びかける
オンラインで子どもたちとつながる河野さん。「リアルで会いたいねー!」「次は美術館で待ってるよー!」と子どもたちに呼びかける
作品鑑賞は、Zoomのブレイクアウトルーム機能でグループに分かれて実施。ゴッホの作品を見て、考えたこと、感じたことをみんなで共有した
作品鑑賞は、Zoomのブレイクアウトルーム機能でグループに分かれて実施。ゴッホの作品を見て、考えたこと、感じたことをみんなで共有した
バックナンバー
新着記事
新着一覧
新着一覧

ページトップ