復活!体験学習のチカラ
子どもに「本物」で学び、人とつながる体験を 都美術館と東京芸術大がプロジェクト実施中
2022.10.21

子どもと一緒に、対等な立場で楽しんで
では、子どものミュージアム体験を豊かなものにするために、親には何ができるのでしょうか。
「何よりも、親も一緒に楽しむこと!」と河野さんは言います。「“保護者”というつもりでいると子どもの付き添いの人になってしまいますが、そうではなく、まずはご自身が「みる人」になってほしいと思います。子どもは小さい人、親は大きい人、というくらいに思って、対等な立場で一緒にミュージアムを楽しんでください」。美術に疎いとか、建築には詳しくないとか、そんなことは気にする必要はないといいます。「一緒によく見て、その時感じたことを感じたままに伝えあえばいいんです。子どもに何か聞かれたら正解を答えなきゃいけないなんてこともありません。まずは子どもの発言をよくきいて、わからないことは『なんだろうね? わからないから一緒に調べてみようか』でいい」
また、小牟田さんは、「作品の正しい見方といった枠にとらわれないでほしい」と言います。「これはこういうものだ、という知識や常識の枠を意識的に外してみてほしいですね。大人が子どもの発言をよくきくことで、思いもよらない感想がきけるかもしれません」。そして、展示されている作品や資料を全部見ようとしないのも大事だそうです。「大人はつい、全部見なきゃ…と思ってしまいますが、まずは興味を持って面白いと思うものを一つでも見つけること。それをじっくり見るという経験が何より大切です」

あいうえののプログラムに参加すると、「ミュージアム・スタート・パック」がもらえます。そのなかに入っているのが「冒険ノート」。あいうえのでは、言葉や絵、写真などでその日の体験をノートに残すことを推奨しており、あいうえののホームページには冒険ノートを共有できる「みんなの冒険ノート」というコンテンツもあります。
「ミュージアム体験に即効性はありませんが、積み重ねていくうちに変化があるものです。体験の中で考えたことを忘れてしまわないように、残しておくことが大事です。うまく絵を描く必要はありません。気になった作品が載っているチラシを切り貼りして感想を書くことでも、その時に考えたことを残すことができます。子どもにだけやらせるのではなく、親子でそれぞれ取り組み、お互い感じたことを見せ合うのも楽しいですよ」(小牟田さん)

「ミュージアムに行けば賢くなるんじゃないか、何か知恵を授けてもらえるんじゃないかと、期待する人も多いかもしれません。でも、人から教わった知識は、なかなか定着しにくいものです。自分の日常とは異なる世界と出会い、五感をはたらかせ、感じたことを言葉にするなかで、子どもたちのなかに『経験知』は着実に蓄積されていくのだと思います。多様な考え方がある世の中を生きていく上で、経験で得られる知識は欠かせないもの。そのためにも、いかに多様なものに関われるか、つながりの体験をもてるかが、大事なんじゃないでしょうか」(河野さん)