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小惑星「カメンライダー」も 日本語にちなんだ科学発見のネーミング③【地学編】
2022.10.21

科学の世界では、新たに発見した物質や現象に対し、研究者が自身で命名できることが面白さの一つといえます。その中には、研究者ゆかりの場所や出来事へのこだわりが感じられるネーミング、意図的にインパクトを狙ったネーミングが多くあります。ここでは、日本の研究者によって日本語でつけられた新発見の名前を採り上げ、ネーミングに至るエピソードを紹介します。3回目は【地学編】です。海外の研究者が付けた日本生まれの人気キャラも登場です。難しいことが多い理科の話ですが、ネーミングの面白さを知れば親近感が沸くのではないでしょうか。(1回目【化学編】はこちら 2回目【生物編】はこちら)
カンチとリカも星に
「恋する小惑星(アステロイド)」という漫画がある。地学部員の女子高校生2人が「小惑星を見つけて名前を付けたい」と夢を追う物語だ。作者のQuro(クロ)さんも高校では地学部。天文好きな父親の影響を受け、子どもの頃から望遠鏡で星を眺めたり、家族で流星群や彗星を見たりしていたという。
空想の世界の話だけではない。2008年には国立天文台の天文研究体験学習に参加していた沖縄の高校生が小惑星を発見。後に沖縄県の八重山語でカンムリワシの羽を意味する「アヤパニ」と名付けられた。元素や遺伝子の発見はプロの研究者にしかできない仕事だ。だが、星や化石の発見は中学生や高校生でもできる。特に日本の場合、アマチュアの活躍が大きく貢献している。地学・天文学の分野がほかの物理、化学などの研究と決定的に違う点だ。
小惑星とは、主に火星と木星の軌道の間に無数にある小さな天体。探査機はやぶさ、はやぶさ2が目指した「イトカワ」や「リュウグウ」も小惑星だ。池谷・関彗星や百武彗星など彗星は発見者の名前が付く。超新星はアルファベットと数字の符号が付くだけ。これに対し、小惑星は発見後の追跡観測で軌道がはっきり定まると国際天文学連合(IAU)に登録され、発見者が名前を付ける権利を得る。ただし、自分の名前は付けられない。
愛媛県の久万高原町に112個の小惑星を発見し、106個も名前を付けた天文家がいる。長年、久万高原天体観測館の職員を務めていた中村彰正さんだ。
「コメットハンターに憧れて彗星を探していたのですが、そう簡単に見つかるものではない。新発見の彗星の軌道を決める観測をしていました。観測館の大きな望遠鏡で観測をしていると、そのついでに結構新しい小惑星が見つかったんです」
愛媛県出身の役者・藤岡弘、さんの「フジオカ」、その代表作「カメンライダー」。子どもがファンだった「アンパンマン」と作者やなせたかしさんの「ヤナセ」。人気漫画「東京ラブストーリー」の「カンチ」と「リカ」は主人公が通った小学校という設定で同町の中学校がドラマのロケに使われたから。松田優作さんの「ユウサク」、伊藤博文の「ヒロブミ」、「アキヨシダイ」など故郷の山口県にゆかりの名前も多い。高校の地学部で一緒だったエヴァンゲリオンの監督・庵野秀明さんの「ヒデアキアンノ」もある。「彼は美術部と兼務でしたが」。プロ野球の球団では2番目になる広島の「カープ」も付けた。
ではプロ野球初はとなると、別なグループが命名した「トウキョウジャイアンツ」。グループの中に阪神ファンもいて、阪神も名付けたいと主張したが、「マンガに『巨人の星』はあっても『阪神の星』はない」と却下。2003年に阪神が18年ぶりにリーグ優勝し、ようやく悲願の「ハンシンタイガース」の星が誕生した。
漫画家では、中村さん以外が名付けた手塚治虫さんの「テズカ」、松本零士さんの「レイジ」などがある。少女漫画家初の安野モヨコさんの「モヨコアンノ」は庵野さんと夫婦での命名になる。
1990年代から欧米の大型望遠鏡を使って地球に接近する天体を自動的に監視する仕組みが整い、彗星王国と言われた日本のアマチュア天文家がもう新天体を発見できなくなるのではないかと危機が叫ばれてきた。だが、欧米では観測できない日中に日本は夜を迎える。まだ、活躍の場は残されている。