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東工大・益一哉学長「医科歯科大との統合も143人女子枠も危機感から決断」

2022.11.30

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中村 正史
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東京工業大学が東京医科歯科大学と2024年度に統合することが注目を集めています。統合に向けた基本合意書を締結した約1カ月後には、24年度入試から女子枠を設け、25年度では143人の規模になることを発表しました。一般選抜を含めた1学年の募集人員の14%に当たり、国立大学では前例のない措置です。政府の教育未来創造会議の有識者メンバーでもある益一哉学長に、その背景と真意を聞きました。(写真は、統合に向けた基本合意書を締結し、記者会見する益一哉学長〈左〉と、東京医科歯科大学の田中雄二郎学長=10月14日)

益一哉

話を聞いた人

益 一哉さん

東京工業大学学長

(ます・かずや)神戸市立工業高等専門学校から東京工業大学工学部電子物理工学科3年に編入学し、同大学院理工学研究科電子工学専攻博士課程修了。工学博士。東北大学電気通信研究所助教授を経て、2000年東京工業大学精密工学研究所教授。 フロンティア研究機構教授、科学技術創成研究院長などを経て、18年から学長。専門は半導体、集積回路工学。

20年あれば人材を育てられたはず

――10月の東京医科歯科大学との統合の記者会見で一番印象に残っているのは、益学長の「1990年以降、30年の製造業の停滞の一因は東工大にあるのではないかと強い危機感を持っている」という言葉でした。

もっと正確に言うと、日本のGDPは伸びておらず、米国は伸びていますが、製造業は米国も意外に伸びていません。米国で伸びたのは、DX(デジタルトランスフォーメーション)を使った産業や、バイオなどの新しい産業です。日本もそういう産業が出ていれば、伸びていたはずです。東工大には情報系もありますが、大部分は製造業に関連する分野です。大学として製造業を支えてきたという自負心はありますが、世界で戦うための日本の成長に貢献したかと言われれば、本来なら20年あれば人材を育てられたはずなのにできなかった。そのことをはっきり自覚しようということです。

東工大は2022年度からの第4期中期目標・中期計画で「科学技術の再定義」「理工学の再定義」を掲げました。その真意は、従来型の産業ではない、新しい産業を考えようということです。

――そこまで聞いて、あの言葉の深い意味がわかります。「失われた30年」と言われる日本経済の停滞は、新しい産業が出てこなかったことが原因です。

東工大は1881(明治14)年に東京職工学校として設立されましたが、設立の理念には、「工業学校を起こし卒業生を出して而して工業工場を起こさしめんとした」とあります。当初から、新しい産業をつくる人材を育てることが東工大の使命でした。

気を付けないといけないのは、この30年で伸びた産業と同じことをやっていけばいいかというと、違うということです。サイバー空間だけではなく、カーボンニュートラルとDXを絡めた新しい型の産業が出てくるでしょう。新しい産業は、GAFAのようなプラットフォームをつくって一人勝ちする覇権主義的なベンチャーにはならないはずです。カーボンニュートラルは、一つの技術だけではできないからです。

恐らく10年後には、カーボンニュートラルに取り組む会社が世界で200~300社出てくるでしょう。私は、そのうち3分の1くらいは日本から出て、その3分の1は東工大から出したいと言っています。

そのくらいの志を持たなければいけません。学生だけに「志を持て」というのは間違っています。「失敗を恐れず挑戦しよう」と学生に言うのなら、大学が率先してやるべきです。

――益学長も有識者メンバーだった政府の教育未来創造会議の第一次提言の中で、デジタル人材やグリーン人材の育成と並んで、理系をOECDで最も高い水準の5割程度にする目標を掲げ、注目されていますが、どういう議論だったのですか。

会議ではOECD諸国との比較が紹介されていたので、個人的には数値目標ではなく、他国と比肩するくらいにならないと、次の30年は危ういなと思っていました。

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