親と子のコミュニケーション術

「がんばりなさい」は”呪い”の言葉? 犯罪心理学者が教える、子どもへの声かけ

2022.12.08

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小林 香織
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刑務所や少年鑑別所で1万人を超える犯罪者・非行少年の心理分析を行ってきた犯罪心理学者の出口保行さんは、「保護者が良かれと思って言っている言葉が子どもにとって重圧になることが多くある」といいます。「早くしなさい」「がんばりなさい」といった、保護者が使いがちな言葉も、その一つ。今回は、子どもを追い詰めてしまう「呪いの言葉」と親子関係のあり方などについて聞きました。

Yasuyuki_Deguchi

話を聞いた人

出口 保行さん

犯罪心理学者/東京未来大学こども心理学部教授

(でぐち やすゆき)1985年東京学芸大学大学院修了後に、法務省に心理職として入省。全国の少年鑑別所・刑務所等で犯罪者を心理分析。その他、法務省矯正局、法務省法務大臣官房秘書課勤務等を経て、法務省法務総合研究所室長研究官を最後に退官し、同時に東京未来大学教授。2013年からは、こども心理学部長を務める。著書に「犯罪心理学者が教える子どもを呪う言葉・救う言葉」(SB新書) などがある。

呪いの言葉は保護者の「焦り」から生まれる

ーー著書で「保護者が良かれと思って言った言葉が、子どもにとって重圧になることが多くある」と主張されています。真意を聞かせてください。

私が本書を通して保護者の方に伝えたかったのは、「これらの言葉を絶対に言ってはいけない」ということではありません。「子ども側がどう受け取っているかを考えてほしい」ということです。

私は犯罪心理学者として、1万人を超える犯罪者・非行少年の心理分析を行うなかで、「どんな育ち方や環境が子どもを非行に走らせてしまうのか」を研究してきました。子どもへの面接を通じてわかったのは、保護者が良かれと思って言った言葉が、子どもにとって非常に嫌なこと、あるいは重圧になっているケースが多々あることでした。それは、「早くしなさい」「何度言ったらわかるの」「気をつけて」「がんばりなさい」など、世間の保護者なら誰もが発しているような、ありきたりな言葉だったのです。

しかし、そうした言葉が負担となっている子どもには、保護者に対する不信感を抱いているという共通点がありました。彼らは保護者から一方的に意見や指示を押し付けられてきた経験から、保護者と信頼関係が築けていなかったのです。こうした背景を踏まえて、子どもの健全な成長のためには、親子関係がもっとも大事だという結論にいたりました。

大事なのは「『〇〇』という言葉を発した」という客観的な事実ではなく、それを「子ども自身がどう感じたか」という主観的な事実です。どんな言葉をかけるにしても、保護者には子どもの気持ちに寄り添って、信頼関係を築くことを大切にしてもらいたい。本書には、そんな思いを込めました。

ーー保護者がかける言葉が、時に子どもにとって「呪いの言葉」になりえる。一方で、著書には「親だって間違うものだ」と保護者に寄り添うメッセージも多くありました。

何が成功なのかわからない混沌(こんとん)とした現代社会では、保護者が抱える子育ての負荷が高くなっていると思います。多様な考えや価値観があり、ゴールは一つではありません。

そんな状況だからこそ、保護者は「子どもをどこに導けばいいのかわからない」と混乱してしまう。そして、混乱は焦りを生みます。著書に書いた「呪いの言葉」は、保護者の焦りから生まれているのです。

しかし、最初から完璧な保護者はいませんし、思い通りにいかないのが子育てです。失敗しながらも子どもと真剣に向き合い、より良い保護者になっていくことが大切なのです。

中学受験を目指す家庭では、プロセスにも目を向ける

ーー近年、特に都市部では、中学受験を考えるご家庭も増えています。中学受験を目指すご家庭で、ありがちな危ない言動はありますか。

中学受験は「志望校への合格」がゴールであり、目標設定が明確ですよね。保護者は合格に向かって子どものお尻をたたくわけですから、「がんばりなさい」と声をかけることが多いでしょう。

しかし、大半の子どもはがんばり方がわからない。だから、いかに内発的な動機づけをするかが大切です。私は「努力したプロセス」を褒めることを推奨しています。子どもの中に課題解決による充実感が生まれれば、次の課題に取り組む意欲も出てきます。

一方、「合格したら〇〇を買ってあげる」といった外発的な動機づけは、ご褒美がなければがんばれない状態を作り出してしまいます。さらに、がんばっても望んでいた結果が出なかった場合、「努力をしてもムダ」だと感じる学習性無力感の状態に陥ってしまうことも。

人生には、がんばっても結果が出ないことは、いくらでもあります。たとえ志望校への合格というゴールが達成できなかったとしても、そのプロセスに一つとしてムダはありません。受験勉強の過程で身に付けた知識は、その後の人生で必ず役立ちます。結果が出ずに子どもが落ち込んでいても、プロセスを褒めてあげることを忘れないでください。

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