都立高入試スピーキングの不可解

都立高入試初のスピーキングテストめぐり、「他人が解答する声が聞こえた」「中学で学ぶ範囲を超えた出題」と疑問の声 都教委の見解は

2022.12.08

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石田 かおる
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東京都立高入試の初めてのスピーキングテスト「ESAT-J」が11月27日に実施されました。都議の連盟などが受験生や保護者らを対象に行った調査では、「テスト中にほかの人の解答が聞こえ、カンニングできるような状況だった」との声が寄せられました。さらに出題内容についても「中学では習わない文法を使った問いがあった」と指摘する声もあがっています。実施されたテストで何が起き、都教育委員会はこうした指摘をどう受け止めているのか、取材しました。(写真は調査結果を発表する都議の議連と団体の会見の様子=東京都庁)

「ESAT-J」は都内公立中学3年全員を対象にしたアチーブメントテストで、結果は都立高入試に活用される。都内197会場で行われ、約6万9千人が受験した。テストはタブレット端末に解答を吹き込む形式で、前後半の2組に分けて行われた。事業主体は都で、民間事業者ベネッセコーポレーションと共同実施している。

イヤーマフ越しに他の人の解答が聞こえた

12月5日、テスト当日の実態調査を行った、ESAT-Jの都立高入試への活用中止を求める都議の議連と3団体が共同で会見を開いた。調査は、テスト実施日からインターネット上で1週間行い、回答数は478件。回答者の6割が中学3年生、3割が保護者だ。任意の回答とした会場名についても359件の記入があったという。

会見で「調査には、試験が公平・公正に行われたとはいえない事例が多数寄せられた」と議連事務局長の戸谷英津子都議(共産)は報告した。

そうした事例の中で、最も多かったのは「イヤーマフ越しに他の受験者の解答音声が聞こえた」の166件。次に「前半組と後半組の情報遮断不全」が92件で、具体的には「前半の人たちの回答が丸聞こえでした」「後半組は前半組の声を聴いて試験の問題を予測できていたのでは」「前半の人と後半の人で休み時間中情報が提供されていた」などと記入されていた。加えて、「録音確認の際に周りの人の声が録音されていた」も55件あった。

テスト会場で受験生は、イヤホンマイクと防音のためのイヤーマフを着けた。しかし、テスト実施後に筆者が取材した、ESAT-Jを受験した女子生徒は、次のように話す。

「テスト問題の中に、ホテルの絵を見ながらレストランの階数を答える質問がありました。『ファースト』と答えたら、周りの人たちの『セカンド』という声が聞こえてきて『失敗した…』と思いました」

前後半組の教室が隣合わせで、「答える声が聞こえた」

また、ESAT-Jは1台のタブレット端末を2人で使うため、全員が一斉に受験せず、前後半の2組に分けられた。テスト実施前から、同一問題を時間をずらして実施することにより、後半組に事前に問題が漏れてしまう懸念が指摘されてきたが、都教委は「前後半の生徒の動線が交わらないよう対策する」と説明してきた。

ところが、本番では前半組と後半組の教室が隣合わせで配置された会場が複数あった。前半組として受験したある女子生徒の保護者を取材すると、教室には30人を超える受験生がいて、女子生徒は「後半組のテストが始まると答える声が聞こえた。後半組にも前半組の声は聞こえていたと思う」と話しているという。また、教室が隣り合わせだったことにより、前半組と後半組が休憩時間に接点を持てる状況だったという声も取材のなかで複数聞かれた。

京都工芸繊維大学でコンピュータ方式の英語スピーキングテストの開発や運営に携わってきた、名誉教授の羽藤由美さんは、調査結果について、「恐れていたことが起きた。最も深刻なのは、イヤーマフやタブレット端末のちょっとした操作でカンニングができることに気づいた受験生が少なからずいたこと」と話す。

「『(テストの)開始ボタンを遅く押せば他の人の回答を聞いてから答えることはできたと思う』『周りの声がしっかりと聞こえた。(出題の)音量を下げればもっと聞こえたと思う』といった声がありました。問題は、簡単にカンニングができてしまう運営の仕組み自体にあり、情報は、生徒間だけでなく、SNSでも既に共有されています」(羽藤さん)

こうした実施後の指摘について、都教委はどう考えているのか。指導企画課国際教育推進担当は、取材に対して次のように答えた。

「大勢の受験生が一斉に答えるので、イヤーマフ越しでも音が聞こえることは認識しています。しかし内容まで聞き分けることはできなく、解答自体への影響はないと考えています。また、高感度なマイクを使っているので、他人の声を拾ったとしても、本人の声は識別できるので心配いりません」

とはいえ、これだけ疑問を唱える声が、受験した中学生たちからもあがっている。不安や疑念を解消させるために、受験生たちに調査したり、機材の技術について公開で説明したりする予定はないのだろうか。

担当者は「運営主体であるベネッセからも、当日会場にいた都庁の職員からも、そうした報告は上がっていない。解答に影響するような問題があったとは考えていません」と答えた。

前出の羽藤さんは言う。

「500近くの調査の声に全て目を通しましたが、公平・公正なテストが実施されたとはとてもいえません。生徒や保護者の声に耳をふさぎ、ベネッセからの報告を待つというのは、都教委はあまりに無責任です。事業の主体として、ESAT-Jの結果を都立高校の入試に使うと決めたのは都教委。入試に活用するのが妥当かどうか、正確な事実確認を早急に行ったうえで判断すべきです」

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