算数・数学 学びのヒント
数学こそ「話せば分かる」 少人数授業で「嫌い」は変わる
2023.01.13

算数や数学は、公式や解法を暗記し、数字を当てはめて正しく計算できれば、正解にたどり着ける――。短絡的な受験勉強の弊害か、そんな「暗記数学」の迷路に入り込み、分数やパーセント(%)の本質を理解しないまま大学生になる若者がいます。数学者で、小学生から大学生まで幅広く数学の魅力を教えてきた桜美林大学リベラルアーツ学群の芳沢光雄教授が、中学・高校受験期の子どもにこそ理解してほしい算数・数学のツボを解説します。
暗記からプロセスの「理解」へ
「憲政の神様」と呼ばれた犬養毅(木堂)首相は、1932年の五・一五事件で殺害されました。海軍の青年将校らに「話せば分かる」と言った直後、「問答無用」と撃たれたといいます。筆者の祖父は木堂の娘婿で、筆者は直系のひ孫にあたります。
「話せば分かる」という表現は、木堂が目指した政治そのものを言葉にしたと考えます。現実の社会から「問答無用」を排除することは無理かもしれない。しかし、私が生きてきた数学の世界では、そもそも「問答無用」はあり得ません。どんな独裁者も数学の正しい答えを変更させることはできませんし、数学の教育というのは、本当は誰にとっても「話せば分かる」世界です。にもかかわらず、多くの学校が暗記中心の誤った算数・数学教育を受けさせ、理解が追いつかない生徒に「話しても分からない」というレッテルを貼っているのではないか――。岡山市の犬養木堂記念館を訪れた帰りの新幹線で、そんなことを考えました。
筆者は勤務先の大学で、就職委員長をお引き受けしたことがあります。学生は就職活動中に「適性検査」を受けます。この検査では数学の知識が求められる問題が多く出るため、苦手な学生に向けて毎週木曜の夜に「就活の算数ボランティア授業」を2コマ開講しました。単位認定一切ナシでしたが、何度も挙手を求めて一歩ずつ丁寧に進む授業スタイルを通し、3年間続いた授業には、約1千人もの学生が参加しました。
受講して間もない頃の学生にとって、「分かる」という言葉の意味は「やり方」を覚えることでした。数学科教員として教えてきた学生の「分かる」が、プロセスの「理解」であったこととは対照的でした。
しばらくすると、受講生は「理解」の意味を重視するようになります。「私は小学校の算数以降、『やり方』の暗記だけで学ばされてきました。内容を『理解』できるように説明してもらったのは初めてです」「昔から先生のように教えてもらっていたら、人生は違ったと思います」といった感想文を何通ももらいました。生涯大切に保存しておくつもりです。