一色清の「このニュースって何?」
「異次元の少子化対策」を首相が表明 → 少子化が進むとどうなるの?
2023.01.13

日々のニュースの中に「学び」のきっかけがあります。新聞を読みながら、テレビを見ながら、食卓やリビングでどう話しかけたら、わが子の知的好奇心にスイッチが入るでしょうか。ジャーナリストの一色清さんが毎週、保護者にヒントを教えます。(写真は、子育て支援施設「あかしこども広場」で遊ぶ親子に声を掛けるスタッフ=兵庫県明石市)
東京都は「月5千円」給付の方針
岸田文雄首相は年頭の記者会見で「異次元の少子化対策に挑戦する」と述べました。「異次元」という強い言葉を使ったことに驚かされました。また、東京都の小池百合子知事も年頭のあいさつで、少子化対策として0~18歳の都民に一人当たり月5千円を給付する方針を表明しました。具体的な新政策を年頭のあいさつで公表することも異例で、驚かされました。
首相と都知事が期せずして年頭に少子化対策を打ち上げた背景には、2022年の出生数が77万人台になるという推計が出されたことがあるとみられます。日本の出生数は第2次ベビーブームの1973年には209万人でしたが、その後はずっと減少傾向が続いています。ただ、77万人台は政府の想定より11年も早く、ここにきて明らかに少子化が加速しています。この「77万人ショック」が岸田首相や小池都知事を動かしたのは間違いないと思います。
こうしたニュースは「少子化はよくない」ということが前提になっています。ただ、「どうしてよくないのか」をすぐに説明できない人もいるのではないでしょうか。今回は、少子化(密接に関係する高齢化も含む)の問題点を整理したいと思います。
よくない点については、「経済的によくない」と「社会的によくない」の二つの側面があります。「経済的によくない」という問題がより大きいので、そちらから取り上げます。
国の経済力を支えているのは働く人たちですが、少子化は将来の働き手を減らします。働き手が減ると、よほど生産性が上がらない限り経済力が落ちます。統計的には15歳以上65歳未満の人口を生産年齢人口といい、働く世代の人たちのことを指しています。それ以外の子どもや高齢者を従属人口といいます。生産年齢人口(働く世代の人)が少なく、従属人口(働かない世代の人)が多いと経済にはマイナスになります。
逆に生産年齢人口が多く、従属人口が少ないと経済は成長します。日本は戦後の高度経済成長期がそれでした。戦後のベビーブームで生まれた子どもたちが1960年代に生産年齢人口になり、若い働き手がどんどん増えました。日本は奇跡と言われる高度成長を果たして豊かになり、長寿の国になりました。ただ、豊かになると自分の人生を楽しみたくなり、結婚や出産に積極的でない人が増えました。こうして日本では高齢化と少子化が同時に進み、従属人口が増え、生産年齢人口が減る時代になりました。そうなると経済成長は鈍ります。今の日本はそうした状況になっています。
また、高齢者が増えれば、医療費や年金が増えることになります。医療費にも年金にも税金が入っているため、国の財政支出が増えます。それをまかなうために現役で働く人たちの税金や保険料の負担が増えることになります。結局、働く人たちに経済的負担を強いることになり、その分、消費に回るお金が減るなどして、経済にマイナスの影響が出てきます。
加えて高齢者は貯蓄を取り崩しながら生活するケースが多く、高齢者が増えれば、国全体の貯蓄率が落ちるといわれます。貯蓄率が落ちると、投資に向かうお金が減り、経済にはマイナスになります。
高齢者が増えると経済にはよくないという流れになりましたが、高齢者が増えることは長生きできる社会になったことで、とても喜ばしいことです。問題は生産年齢人口の減少にあり、その原因は少子化です。何とかすべきなのは少子化であることは明らかです。