「測りたい力」の全貌は見えたか ~3年目の共通テスト~

進学校の先生の見方⑦桐朋 「大量の文章を読ませる傾向は続くのでは」

2023.02.06

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柿崎明子
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1月14、15の両日、3年目となる大学入学共通テストが実施されました。数学の難化などが受験生に衝撃を与えた2年目と比べ、今回はどうだったのでしょうか。進学校の先生に聞きました。第7回は東京都国立市の私立中高一貫の男子校、桐朋高校です。(写真は同校提供)

柿澤壽

話を聞いた人

柿澤壽さん

理科教諭(化学専門)、桐朋中学・高校 進路指導部主任

(かきざわ・ひさし)2004年桐朋中学・高校着任。著書に「とってもやさしい化学基礎」「とってもやさしい化学」(旺文社)など。

回を重ねればパターン化する?

――3年目を迎えた共通テストを、どのように感じましたか。

初年度は易しく、2年目は難化するのがセオリーですが、2年目の数学は極端に難しかったですね。3年目になって、程よい難易度に納めてきたと感じました。ただ、多くの科目でページ数が増え文章が増加していました。

――文部科学省が狙っていた、読解力、思考力、表現力を問う試験になっていましたか。

センター試験はよく練られていましたが、知識だけで解けるような問題もありました。共通テストは異なる文章を対比するなど、どの教科でも思考力・読解力を試すような問題にはなっていますが、とにかく量が多い。本当はもっとじっくり考えさせるような問題だとよかったと思います。

本校の国語科の教員は問題を解いて「とにかく疲れた」と。「このような問題傾向では、国語の授業は、大量の文章を短時間で反射的に情報処理する場だ、という認識に陥りかねない」と危惧を抱いていました。数学科の教員は「思考力を測ることができるように工夫がなされており、楽しみながら解くことができた」としつつも、「教員がプレッシャーのないなかで解いた感想であり、受験生の立場を考慮すれば、もっと時間的な余裕があってもよい」と話していました。

――先生の専門の化学はいかがでしたか。

去年の化学基礎は、難易度が高い大問2に十分な時間が取れない生徒もいましたが、今年は大問1が易しかったので、大問2をじっくり取り組む時間的余裕ができ、このような緩急をつけた構成は良かった。化学は反応速度の問題など、生徒がつまずきやすい問題も散見されました。やはり問題量が多く、大問5に目新しい題材が出題されましたが、そこにいきつく頃には焦りも出始め、時間不足で十分に取り組めなかった生徒もいたのでは。時間不足を心配してか、設問をもっと膨らませることができたと思うのですが、グラフを作成しなくても解けてしまったりと、中途半端な形で終わっているようにも感じました。

――生物で得点調整が行われました。

生物は話題になりましたね。一昨年が簡単すぎて平均点が高く、去年難易度を高めて、さらに今年難しくなった。生物の知識を、背景も含めてしっかりと理解していることが前提で、その上で与えられた資料やグラフなどの情報をつなぎ合わせていくという操作が必要だった。大問一つが重く、ヘタをすると大問丸ごと落としてしまう恐れもあったのでは。理科は最後の時間割になっているので、受験生は疲れ切っている。集中と体力も必要です。

――生徒さんの反応はいかがでしたか。

昨年の、難易度がアップしたレベルを想定した模擬試験を複数回受けており、教員も「何があってもあわてるな」と指導していたので、落ちついてとり組めたようです。むしろ想像より、易しいと感じた生徒が多かったようです。

――共通テストの対策は、どのようなことを行っていますか。

英語では、高3で週1~2時間、高2で週1時間ほど、共通テストに特化した問題演習を行っています。ただ、教科にもよりますが、扱う内容が増える一方なので、授業で随時取り入れるのが厳しい場合は、専門の問題集を配布したり、夏期講習や放課後などの課外授業に取り入れたりしています。今年度の夏期講習では、英語のリスニングの講座も増設しました。 一回の読み上げで聞き取らないといけないので、慣れないと対応できない。

本校は以前から、会話や議論を取り入れた授業を行っています。たとえば数学の問題演習では、生徒が黒板に書いた解答をもとに教員や生徒とディスカッションしたりしています。そういう意味では、通常の授業内容が対策になっているとも言えます。

――今後、共通テストはどうなっていくと考えますか。

資料の比較、大量の文章を読ませる傾向は続くように思います。しかし、問題文の情報量が多すぎて、「本当の意味での思考力」を問うこととは乖離(かいり)しているようにも感じました。また、2次試験は問題を取捨選択する力も必要ですが、共通テストでも、この問題は捨てようと発想してしまう生徒が出てくるかもしれない。共通テストの性格を考えると、このような方向はあまり良くないのかなと思っています。

作問をされている先生方は本当に工夫して大変な思いをしていると思いますが、回を重ねるごとに会話文・資料比較といった形式がパターン化してしまわないかな、とも思います。

――新指導要領に対応する、25年からの試作問題が昨年末に公開されました。感想は。

情報に関しては20年の試作問題、21年のサンプル問題ともに難しく、情報の教員は「これは厳しい」と感じたようです。しかし今回は取り組みやすくなりました。文章量は、やはり多いですね。本校では、情報は高1の授業で行いますが、そこでしっかり取り組んで、高3で復習を兼ねた演習を行えば、対応できると思います。

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