学習と健康・成長
約20%の子どもに見られる「歯ぎしり」 専門家は「睡眠環境の見直しを」
2023.03.08

子どもの寝顔を見つめていると、ギリギリと歯ぎしりをする音に気が付くことがあるのではないでしょうか。大阪大学の加藤隆史教授らの研究グループは米国科学誌「Sleep」にて、世界で初めて、子どもの歯ぎしりが睡眠周期に合わせて繰り返し増減することを明らかにしました。子どもの歯ぎしりの原因や対策について、加藤教授にお聞きしました。
(かとう・たかふみ)大阪大学歯学部歯学科卒業。大阪大学大学院修了。松本歯科大学准教授、大阪大学歯学研究科講師を経て現職。研究分野は口腔生理学、睡眠関連疾患など。
気になる子どもの歯ぎしり、体にはどんな影響が?
――どのくらいの子どもが、寝ている間に歯ぎしりをするのでしょうか。
睡眠中に歯ぎしりをする睡眠関連疾患は「睡眠時ブラキシズム」と呼ばれ、子どもの約20%に見られることがわかっています。実際に、私たちの研究では、6歳から15歳の子ども44人中15人(27.3%)に歯ぎしりが見られました。歯ぎしりは加齢とともに発生率が下がる傾向があります。
――歯ぎしりによって、子どもの体にはどんな影響がありますか。
体への大きな影響というと、やはり歯へのダメージが挙げられます。乳歯は永久歯より柔らかいので、表面のエナメル質が削れ、神経の近くまで露出してしまうと、歯が痛くなることもあります。ただ、ここまでのケースは多くはありませんので、過度に心配する必要はないでしょう。
これ以外には、歯ぎしりによって、顎が痛くなるというケースも見られます。気をつけたいのは、乳幼児や小学生は、痛みや違和感を言語化できないことがある点です。つまり、自分の症状を言葉にして保護者に訴えづらいのです。
子どもの歯ぎしりって、どんなメカニズムで発生するの?
――そもそも、子どもの歯ぎしりは、どのようなメカニズムで発生するのでしょうか?
歯ぎしりは、「歯をすり合わせる」という一見すると単純な現象ですが、そのメカニズムは詳しくわかっていません。睡眠中の脳や心臓、呼吸、あごの筋肉の活動を詳しく記録し、解明していく必要があるため、世界的にも研究が進んでいないのです。
2021年に大阪大学歯学研究科では、子どもの睡眠検査の結果を報告しました。そこでは、歯ぎしりがレム睡眠へと移行するノンレム睡眠(※)に集中して発生することを突き止めました。
※睡眠中に眼球が素早く動き、起きている状態と似た脳波が見られる睡眠を「レム睡眠」、そうでない睡眠を「ノンレム睡眠」と呼ぶ。私たちは寝ている際に、レム睡眠とノンレム睡眠を数回繰り返している。
その研究結果から、あごを動かす神経が過剰に反応することが原因となって、歯ぎしりが起こるのではないか、と私たちは考えています。
人間の口の動きには、母乳を吸ったり、食べ物をかみ砕いたりする際に、あごを繰り返し動かすという神経の仕組みがあります。歯ぎしりは、歯が生え始める生後6カ月頃から見られますが、それは歯が生えて音が出るから気づくのです。あごを繰り返し動かすという神経の仕組みは人間に本来備わっているものなので、歯が生えてない頃から、同じような動きをしている可能性はあります。
――歯ぎしりが起こりやすくなる原因はありますか?
子どもの歯ぎしりは「分離不安」などの過度なストレスから発生することがあります。分離不安とは、お母さんと離れてしまった際などに起こる不安、緊張などのストレスのことです。
普段はすやすや寝ているのに、急に歯ぎしりをするようになった。このような場合は、子どもにいつもと変わった様子がないか問いかけてみたり、学校や幼稚園の行動の変化について聞き取ったりして、その背景を探ってみてもいいでしょう。

また、例外的なケースではありますが、てんかんなどの発作を持つ患者や注意力や集中力が低下した患者に処方する薬の副作用として、歯ぎしりをする例も報告されています。もし、中枢神経に作用する薬を服用して歯ぎしりが発生した場合は、担当の医師に相談してみてもいいかもしれません。