SDGs@大学

放置された竹林の活用や空き家の再利用で地域の活性化目指す 足利大学・大野隆司研究室

2023.03.22

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鮎川哲也
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◇大野隆司准教授/足利大学工学部創生工学科建築・土木分野建築学コース

国土全体の3分の2が森林という日本。自然が豊かである一方、森林の放置という問題もある。放置された地元の竹を利用し、新たな価値を生む「地産地消」の取り組みが注目されている。写真は大野ゼミ生メンバー。(左から)多胡元貴さん、丸山航平さん、奥村ダニエラさん、大野准教授、永田大昂さん(写真/朝日新聞出版・高野楓菜)

地方創生が言われて久しい。目的の一つは魅力あふれる地方のあり方を築くことである。その地方創生に地元の木材、特に竹を使って取り組んでいるのが、大野隆司研究室だ。

「竹に窓を開けて明かりをともす、竹あかりのイベントは栃木県の事業として足利市でも行われていたのですが、竹は佐野市や栃木市など他の地のものを使っていました。地元産を使ったほうがいいと考え、成長が早い上に使い道に困り厄介者にされていた足利の放置竹林の竹を使うことにしました」(大野准教授)

地元の竹職人の指導のもと、学生が自ら竹を刈っていく。この活動は学生が竹や放置された竹林のことを知り、職人と触れ合う学びの場にもなった。

「足利はコミュニケーションがとりやすく、いろんな組織が協力してくれます。小さな波が少しずつ広がっていくのを感じています」。組織や団体の枠を超えた人々が定期的にミーティングを開催し、足利の活性化に取り組んでいると大野准教授は話す(写真/朝日新聞出版・高野楓菜)
「足利はコミュニケーションがとりやすく、いろんな組織が協力してくれます。小さな波が少しずつ広がっていくのを感じています」。組織や団体の枠を超えた人々が定期的にミーティングを開催し、足利の活性化に取り組んでいると大野准教授は話す(写真/朝日新聞出版・高野楓菜)

「竹を切って大学まで運ぶ、加工するのも自分たちでするわけですから、ノコギリの使い方も知らなかった学生にとっては学びであり、竹の特性や生態を知ることもできて大きな経験になりました」(大野准教授)

また竹に窓を開けて中に照明を入れるだけでは、普通の竹あかりにしかならないが、窓に絵を描いたフィルムを貼れば、違う雰囲気が出せると考えた。そこで同大学の系列短期大学のこども学科や付属の幼稚園などに協力してもらい、園児たちに絵を描いてもらうワークショップを開催した。こうして制作した絵入りの竹あかりのイベントを開催すると、街の人が訪れ、地域の人の交流が生まれた。

「竹林の整備ができたことだけではなく、学生が学外の人とコミュニケーションをとり、多様な人との結びつきが生まれる効果もありました」

自然に還っていく竹チップブロック

放置竹林を有効活用するためのもうひとつの取り組みは竹チップブロックの制作だ。竹は時間が経過すると青から茶に変色し、素材も劣化して朽ちた竹の行き場がなくなる。そこで大野准教授は竹を細かくチップにしてセメントに混ぜてブロックにしようと考えた。

「本学のコンクリートを専門にする先生に相談し研究を重ね、足利工業高校の生徒にも協力してもらいました。竹をチップにする際、大きな破片と小さな粒状のものを組み合わせると、強度を上げつつ、適度な隙間ができブロックとしての完成度を上げることができました。ブロックは水はけがよく軽い割に頑丈なのです」

竹チップブロックはすべて自然素材なので、年月が経つと自然分解されて土に戻っていく。まだ研究と実験の過程だが、環境にもよいと期待を寄せる。

竹チップブロックは、丸く並べるとオブジェやアートのように見える。これを足利市街地中心の古い蔵の前庭に敷き詰めた。多くの人が集まり歩く竹あかりのイベントをこの場で開催し、強度のテストも行った。

「竹をはじめとした地元の木材を建築物などに積極的に使用する、いわば地産地消することで地域の森林を守っていくことができると考えています。さらに、地域の風景をどう後世に伝えていくかにも取り組んでいます。ここにあるものを生かし、ここにないものをつくる、それが私たちの大きなテーマです」

窓に絵を描いたフィルムを貼った竹あかりと竹チップブロック(写真/朝日新聞出版・高野楓菜)
窓に絵を描いたフィルムを貼った竹あかりと竹チップブロック(写真/朝日新聞出版・高野楓菜)

森林の管理と同様に、地方で共通の課題となっているものに空き家問題がある。竹チップブロックを並べた足利市街地の古い蔵も実は使われなくなっていた空き家だ。そこで竹あかりイベント開催にあわせて、蔵を学生とともに修復し、イベント会場にするなど活用の道を広げた。それに伴い、市民が集い交流の場に発展していった。

「空き家を修復する際、足利の木材を使うなど、地元の素材を活用することが大事です。そのことで足利にしかない風景を残し、つくり出していければとも考えています」(大野准教授)

街の中にアスファルトではなく竹チップブロックを敷くのも足利ならではの風景になると大野准教授は期待している。

「つまり、足利にあるものをうまく利用し、活性化していく。学生には足利で学び、足利で“実験”をしてほしいと思いますね」と大野准教授は語る。学生たちが空き家の修復を事業化し雇用を生み出し、一つの産業になってくれれば足利に残る若者も増えるだろうと期待する。

地域の風景を後世に継承していく

その思いを受け止めている学生もいる。大野ゼミの4年生、多胡元貴さんが話す。

「地元に貢献したいと考え、大学で建築を学ぶことにしました。寂しくなっていく街を建築という視点から活性化したいと考えています」

多胡さんの地元は群馬県の渋川市。市内の伊香保温泉は石段で有名で石段街は観光客でにぎわうが、一歩裏通りに入ると廃業した旅館が目につく。その状況を目の当たりにし、卒業研究のテーマは伊香保のリノベーションとすることにした。

「全く新しいものにするのではなく、伊香保にあるものを最大限に生かし、伊香保になかったものをつくりたいと考えています」と多胡さんは理想を語る。大野ゼミで学ぶことで、建築物という点ではなく、街や都市など全体の中で建築を考えるようになったという。街と建築、そして人が有機的に結びつくことが必要なのだ。

多胡元貴さんは衰退していく地域コミュニティーの活性化という課題に対して建築でなにができるのか追求したいと語る(写真/朝日新聞出版・高野楓菜)
多胡元貴さんは衰退していく地域コミュニティーの活性化という課題に対して建築でなにができるのか追求したいと語る(写真/朝日新聞出版・高野楓菜)

理想を持ちつつも、現実的に実現できるものを目指すというのは同じく大野ゼミ3年の永田大昂さんだ。

「小さいころから住宅などを見るのが好きでした。だから将来は建築家になりたいと思っていました」

永田さんがテーマとするのは、住む人が生活しやすい建築だ。人々に愛され、長く使われる建築をつくりたいと学びにも力が入る。永田さんは高校時代、弓道の全国大会で主将としてチームを3位に導いた実績を持つ。大会のために各地を訪れると、それぞれの土地の光や空気の違いを感じた。それ故、「自分が建物をつくるなら、その土地の光や空気を感じるものにしたい」と話す。

永田大昂さんは人のための本当に役立つ建築を目指したいと話す。そのためには細部にまでこだわる必要があると力説する(写真/朝日新聞出版・高野楓菜)
永田大昂さんは人のための本当に役立つ建築を目指したいと話す。そのためには細部にまでこだわる必要があると力説する(写真/朝日新聞出版・高野楓菜)

大野准教授は東京理科大学で博士課程在籍時から奨励研究員のころに、長野県小布施町まちづくり研究所の副所長を務めたこともあり、今も小布施とはつながりがある。まちづくりの際は、表通りだけでなく、一歩入った裏通りにも人を呼び込む工夫をした。現場では学生が空き家改修や植樹を体験する機会もあった。

2022年には足利大学を含め八つの建築系の大学・大学院チームが、小布施町にある県営住宅跡地などを活用し、今後増加が予測される国内外の避難民・避難者を受け入れ、地域住民と共生することを建築の視点から提案するシンポジウムに参加した。

「小布施は風情があり落ち着ける街で学生もそこに魅力を感じています。シンポジウムでは街の風景の継承をテーマに提案しました。私はフランスで活躍した建築家で近代建築の発展に大きな影響を与えたコルビュジエの建築・都市を研究していますが、コルビュジエは全体的なことや普遍的なことを求めながらも、土着的なものや地域性も重要視しています。どの街であろうと、ここにあるものを生かし、ここにないものをつくるのが、私が求めるまちづくりです」

【大学メモ】

足利大学 月見ケ丘高等学校男子部工業課程を母体として1967年に設立された足利工業大学が起源。足利市に二つのキャンパスを有する。学部学生数は1651人(2022年5月1日現在)。

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