一色清の「このニュースって何?」

袴田さんの再審開始を東京高裁が決定 → 刑事裁判の四つの原則を知っておこう

2023.03.17

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一色 清
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日々のニュースの中に「学び」のきっかけがあります。新聞を読みながら、テレビを見ながら、食卓やリビングでどう話しかけたら、わが子の知的好奇心にスイッチが入るでしょうか。ジャーナリストの一色清さんが毎週、保護者にヒントを教えます。(写真は、再審開始の決定を受けて報道陣のインタビューに答える袴田巌さんの姉の秀子さん〈中央〉=3月13日、東京都千代田区、井手さゆり撮影)

あってはならない冤罪

1966年に静岡県のみそ製造会社の専務一家4人が殺害された事件で、強盗殺人罪などで死刑が確定した袴田巌さんについて、東京高裁が裁判をやり直す再審開始を認めた静岡地裁の決定を支持し、検察側の即時抗告を棄却する決定を出しました。検察側が最高裁への特別抗告を断念すれば再審開始が確定し、地裁で再審公判が開かれ、袴田さんは無罪となる公算が大きいと見られています。

無実であるのに犯罪者とされることを「冤罪(えんざい)」といいます。いわゆる濡れ衣(ぬれぎぬ)です。もちろんあってはならないことです。袴田さんは冤罪だった可能性が強くなっています。

冤罪をなくすために、わたしたちはこうしたニュースに注目する必要があると思います。間違った裁判が行われないように、関係者により緊張感を持ってもらうためです。ただ、裁判のニュースは複雑でわかりにくいと感じている人も少なくないでしょう。今回は、ニュースを理解する手助けになる「刑事裁判の原則」を四つ紹介します。

裁判には、大きく分けて刑事裁判と民事裁判があります。刑事裁判は、国家が犯罪者に刑罰を適用するためにおこなう裁判です。民事裁判は個人の法的な紛争を裁くためにおこなう裁判です。

まず、刑事裁判にも民事裁判にも適用される原則として「公開の原則」があります。日本国憲法82条に「裁判の対審及び判決は、公開法廷でこれを行ふ」とあります。誰でも裁判を傍聴できるということです。例外として私生活に深く踏み込まないといけない場合や企業秘密にかかわる場合などは裁判官が全員一致すれば非公開にすることができます。ただし、政治に関する犯罪、出版に関する犯罪、国民の権利が問題になっている事件については必ず公開しないといけないとされています。裁判が公平公正におこなわれているかどうかを国民が監視できるようにするための原則です。

二つめの原則は、「証拠裁判主義」といわれるものです。事実の認定は証拠によっておこなわれないといけないという原則です。つまり、検察官や弁護人から法廷に出された証拠だけに基づいて事実認定が行われ、判決が下されないといけません。法廷に出されなかった証拠や報道によって知ったこと、個人的に聞いた話などは判断の材料になりません。

袴田さんの再審開始決定を支持した東京高裁は新証拠に基づいて、袴田さんの犯行時の着衣とされた証拠品は捜査機関が捏造(ねつぞう)した可能性が「極めて高い」としました。また、自白は「証拠の王」といわれるくらい強い証拠ですが、袴田さんが自白したとして提出された45通の自白調書のうち44通を「連日の長時間の取り調べで任意性に疑いがある」とし、残る1通も「証拠価値が乏しい」としました。

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