学習と健康・成長

スポーツ心理学者の田中ウルヴェ京さんに聞く、子どもが本番に強くなるメンタルトレーニング

2023.03.28

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遠藤光太
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志望校の入試やスポーツの大会、人前でのスピーチなど、子どもの頃から緊張や不安を感じる場面は数多くあります。緊張や不安が原因で、本来の実力を出しきれなかったり、体調を崩してしまったりするケースもあるでしょう。本番で自分の感情を上手くコントロールするにはどうすればいいのか。1988年のソウル五輪シンクロ・デュエットで銅メダリストとなり、その後はトップアスリートのメンタルコーチを務める田中ウルヴェ京さんに聞きました。

Miyako_Tanakauluve

話を聞いた人

田中ウルヴェ 京さん

スポーツ心理学者(博士)

(たなかうるゔぇ・みやこ)1988年ソウル五輪シンクロ・デュエットで銅メダルを獲得。引退後は日米仏の代表チームコーチを10年間勤め、米国大学院へ留学し修士号を取得(スポーツ心理学)。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科で博士号取得。慶應義塾大学特任准教授、日本スポーツ心理学会認定スポーツメンタルトレーニング上級指導士。トップアスリートや経営者、医師、研究者、アーティストなどに心理コンサルティングを行う。著書に『心の整えかた トップアスリートならこうする』(NHK出版)など。

本番で力を発揮するために「心を整える」

――入試やスポーツ大会などの本番に向けて、自分のメンタルをコントロールするために大切なことは何でしょうか。

よく誤解されますが、メンタルトレーニングとは、「焦りや緊張といった感情を抑制し、ネガティブな思考を改める」といったものではありません。

「どんな感情にも良い・悪いはないという前提のもと、自身の感情や思考の動きに気づき、調整する」という意味のコントロール力を鍛えていくことがメンタルトレーニングです。この違いをしっかり理解しておくことが、まず大前提です。

その上で、大切なのは、心を整える方法を知っておくことです。本番に向けて、体を整える(体調管理)ことは徹底しますよね。しかし、メンタルは何もしないで、「集中しよう」「ポジティブに考えよう」と思えば、突然できるようになると思っている人が多いんです。しかし実際には、心も体調や勉強と同じように、本番に向けて事前に準備する必要があります。

心を整えるためには、日常生活からのメンタルトレーニングが重要です。体について、「こういう体の使い方をすると、両腕だけが筋肉痛になるんだな」と学ぶように、心も「こういう挑戦をすると緊張するんだな」と気づく経験が必要です。

――自分の心を整えるのは、大人にとっても難しいことですよね。子どもだとなおさら難しいように感じます。

大人でも子どもでも、難しいと感じる人もいれば、そうでない人もいます。ただ、子どもにとっては人生のさまざまな出来事が「将来を変えてしまうのではないか」と過度に思ってしまう状況も多いかもしれません。

保護者や教員、習い事の先生などといった周囲の大人からの励ましも、なんらかの過度なプレッシャーを感じる場合があるでしょう。補足すると、そのこと自体は悪いことではないのです。けれど、「プレッシャー=良くないこと」だと思っているのであれば、それこそ心の整え方についての知識が必要でしょう。

また、子どもは自分の心を言語化するには、まだ語彙(ごい)力が足りない面もあります。私は6歳で水泳を始め、10歳でシンクロナイズドスイミング(現在の呼称はアーティスティックスイミング)に転向したのですが、その頃は大会前の緊張や不安をうまく言葉で表せず、「嫌だ」と表現していましたね。

――将来オリンピックで活躍する選手でも、子どもの頃の緊張や不安を捉えることは難しかったのですね。

そうですね。当時の日記を振り返ると、「明日の試合が嫌だな」「勝てなかったらどうしよう」とよく書いていました。

一方で、日記に「嫌だ」「どうしよう」と素直な悩みを書けること自体はとても大事だと、心理学を勉強してから気づきました。素直に悩みを言葉にできると、「じゃあどうするか」という思考につなげることが可能です。私の場合、「明日が来るのが嫌だ」と書いた後に、「じゃあどうするか」を考えていました。「嫌だと思っても、明日は来てしまう。今できることは何だろう。寝ることだ。眠れそうにないけど、寝ないと明日がもっとつらくなってしまう。だから寝よう」というように。これがストレスコーピング(自分のストレス感情や思考に気づき、課題に合わせた対処行動を考えること)になっていたのだと思います。

ストレスコーピングができるようになったのは、幼いころから大小問わずたくさんの大会に出場し、「昨日、早く寝ておけばよかった」「宿題は全部終わらせておいた方がよかった」と感じることがあったから。小さな失敗から経験を蓄積し、緊張や不安というストレスはあってもいい、それに応じて対処行動を作ればいいだけなんだと思っていました。

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