一色清の「このニュースって何?」

米欧で銀行が相次ぎ経営破綻 → 過去の金融危機はどうやって起きたのか

2023.03.24

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一色 清
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日々のニュースの中に「学び」のきっかけがあります。新聞を読みながら、テレビを見ながら、食卓やリビングでどう話しかけたら、わが子の知的好奇心にスイッチが入るでしょうか。ジャーナリストの一色清さんが毎週、保護者にヒントを教えます。(写真は、経営破綻したシグネチャー・バンクの支店前に集まった報道陣ら=3月13日、米ニューヨーク、真海喬生撮影)

金利上昇で債券価格が下がる

アメリカとヨーロッパで銀行が破綻(はたん)しています。3月に入って、アメリカでは中堅銀行のシリコンバレーバンク(SVB)とシグネチャー・バンクが破綻し、事業を停止しました。ヨーロッパでは、スイスの大手銀行であるクレディ・スイス・グループが経営危機に陥り、同じスイスの大手銀行のUBSが買収することで合意しました。米欧にはこの3行以外にも経営が不安視されている銀行があり、世界的な金融危機になりはしないかと心配されています。今回は金融危機について、なぜ起きるのかということとどれくらい怖いことなのかについて説明します。

アメリカの2行が破綻した主な原因は、金利が急激に上がったことです。アメリカの中央銀行である連邦準備制度理事会(FRB)は政策金利の上げ幅を2022年3月に0.25%、5月に0.5%、6月に0.75%とし、23年2月には政策金利を4.50~4.75%まで引き上げました。金利を上げるとおカネの動きが鈍るため、物価を下げる効果があります。アメリカでは激しい物価上昇が起こっていたため、FRBは物価を下げようとして金利を上げているのです。

金利が上がると副作用もあります。そのひとつが債券の価格が下がることです。債券は満期まで持っていると一定の金利がつきますが、持っている途中に世の中の金利が上がると、持っていたいと思う人が少なくなるため、その時点での価格は下がります。

アメリカの2行は、米国債などの債券をたくさん買っていました。預金などで得た資金を貸し出しに回すのではなく、手っ取り早く債券で運用していたのです。債券の価格が買ったときの価格より下がると、含み損を抱えることになります。多額の含み損があることを察知した顧客は「銀行がつぶれると預金が危ない」と思い、預金を引き出そうとします。そうした顧客が増え、金融機関は資金不足に陥り、経営が行き詰まってしまったのです。

クレディ・スイス・グループは、ここ数年不祥事が相次ぎ、顧客や投資家の信頼を失っていました。そこへアメリカの銀行破綻が起きて、顧客や投資家が不安心理から預金の引き出しや株の売却に動いたことにより、経営危機に陥りました。

金融危機で怖いのは、「あの銀行は危ないようなので、自分の預金を引き出さねば」と思う顧客の不安心理です。こうした心理が広がると、預金を引き出そうと顧客が金融機関に殺到することになります。それを「取り付け騒ぎ」といいます。不安心理が「騒ぎ」を起こし、さらに「騒ぎ」が「騒ぎ」をよぶことになります。

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