スクールリポート
選挙権年齢の18歳への引き下げで始まった「主権者教育」 学校の取り組みのいま
2023.03.31

2015年に公職選挙法が改正されて選挙権年齢が20歳から18歳に引き下げられた。そのとき学校で盛んに行われたのが、選挙権行使の大切さを教える「主権者教育」。今年は4月から5月にかけて統一地方選がある。いまの主権者教育はどのように行われているのか。最近行われた学校現場の活動を取材し、専門家に話を聞いた。(写真は群馬県立吉井高校で行われた出張授業「笑える!政治教育ショー」の場面)
選挙権年齢が18歳に引き下げる法律が成立した2015年以降、都道府県や市町村の選挙管理委員会と高校が連携し、選挙の大切さを教える出前授業(講義や模擬投票)に力を入れた。さらに学校独自の活動も各地で行われた。文部科学省が19年末から20年初めにかけて全国の高校を対象に行ったサンプル調査で、「高校3年生に何らかの主権者教育を行っている」割合は実に「95.6%」という高い結果が出ていた。
しかし、コロナ禍の影響を受けて活動は大幅に縮小。総務省のまとめによると、選挙管理委員会による出前授業の開催高校数は20、21年度ともに約900校にとどまり、最盛期だった16年(約1800校)の半分にまで落ち込んだ。
選挙における18歳の投票率はどう推移してきたのだろうか。例えば法改正後初めて行われた2016年7月の参議院議員選挙では、18歳の投票率は51.17%に達していたが、その3年後の2019年7月に行われた同じ参議院議員選挙では35%まで落ち込んだ。一方でコロナ禍の22年7月には40%に戻した。
主権者教育に関する活動を長年展開している慶応義塾大学SFC研究所上席所員の西野偉彦さんはこの状況を次のように分析する。

「コロナ禍の中行われた21年の衆議院選挙で、18歳の投票率は約4年前の17年に比べて持ち直しました。地方選挙でみても、2020年東京都知事選における18歳の投票率が実に4年前より9㌽上昇しました。コロナ禍の影響で、いったんは下がった投票率が持ち直しているとみています」
西野さんはコロナ禍によって、高校生も「政治がいかに生活と密着しているか実感したのではないか」と分析する。マスク装着の義務、行動制限、休校による文化祭や修学旅行などの行事の中止という政府の決定が、高校生たちの日常生活に直接影響した。その結果、政治に対する関心を持たざるを得なくなったのではないかという推察だ。
西野さんは神奈川県教育委員会で小・中学校における主権者教育の座長を務めるほか、全国各地の高校でも主権者教育の現場に深く関わっている。
コロナ禍直前の調査で高い実施率を示すデータが出たことについて、西野さんは、「現実的には学校によって温度差があります。熱心に出前授業や模擬投票などをやっている学校もあれば、教材を配るだけの学校まで様々です」と指摘する。
なぜ温度差が生じるのか、その理由については「教員が過度に中立性を意識してしまっていることが阻害要因になっているのではないか。主権者教育は『国や社会の問題を自分のこととしてとらえ、判断し行動するための教育』であり、学校や地域などの身近な課題から始めて日常的に主権者教育に取り組んでいくことが大切です」と話す。
コロナ禍の始まりから3年が過ぎ、国の感染症の分類見直しも決まって、社会が少しずつ動き始めている。そんな中で、選挙により関心を持ってもらうため工夫をこらした主権者教育の授業に取り組んでいる教育現場もある。その様子を取材した。