「20世紀最後の巨匠」とうたわれた画家、バルテュス(バルタザール・クロソフスキー・ド・ローラ、1908~2001)の大回顧展が、7月5日から京都市美術館で開催されている。国内での個展開催は約20年ぶり。バルテュスが2001年に92歳で亡くなって以来初めてだ。世界中から集められた40点を超える油彩画の代表作に加え、素描や愛用品も含め計100点以上紹介する。伝統を重んじつつ独特の具象絵画を追究した「孤高の画家」がたどった道と創作の変遷について、同展に学術協力した河本真理・広島大学大学院准教授に寄稿してもらった。

●「巨匠の軌跡探る、またとない機会」 河本真理・広島大学大学院准教授

 本展では1~4章まで、バルテュスの初期から晩年にかけての創造を年代順にたどる。主要な出品作とともに、「20世紀最後の巨匠」の歩みを追ってみよう。

 ポーランド貴族の血を引き、パリで生まれたバルテュスは、11歳にして「ミツ」という愛猫の物語を制作した。このとき以来、猫に同一化したバルテュスは、自分を「猫たちの王」と呼ぶようになる。独学で初期イタリア・ルネサンスのピエロ・デッラ・フランチェスカを模写するなど(「十字架の称揚」)、西欧絵画の伝統に触れながら独自の世界を築き上げていく。

 猫と並んで、バルテュスのお気に入りのモチーフとなったのが、本人いわく「この上なく完璧な美の象徴」である少女だ。「夢見るテレーズ」では、無垢(むく)から性の目ざめへの過渡期を描き出している。このテレーズ・ブランシャールが、最初の少女モデルとなった。

 第2次大戦後にはパリを離れ、ブルゴーニュ地方のシャシーに移った。バルテュスは自然豊かなこの地で風景画に開眼し「樹のある大きな風景」などを残す。幾何学的な構成は、フレスコ画のような独特のマティエール(絵肌)や光の追求とあいまって、具象と抽象を総合している。

 1962年には、ローマにあるアカデミー・ド・フランス館長として初めて来日し、のちに結婚する節子夫人と出会った。「トランプ遊びをする人々」は、この来日で鑑賞した歌舞伎の見得(みえ)に想を得ている。バルテュスが幼少の頃より抱いていた日本に対する関心が、これを機に甦(よみがえ)ったかのようだ。

 第5章では、画家の息吹が伝わる素描が展示され、バルテュスが晩年を過ごしたスイス・ロシニエールのアトリエも世界で初めて再現される。西洋と東洋、具象と抽象といった二面性を併せ持つと同時に、少女という何かに「なりつつあるもの」――過渡期特有の危うい美を描き出したバルテュス。本展は、この私たちを魅了してやまない画家の創造の軌跡とその豊かな背景を探る、またとない機会となろう。

■バルテュス展

■会期:2014年7月5日(土)~9月7日(日)

■会場:京都市美術館

■開館時間:午前9時~午後5時

※入館は閉館の30分前まで

■休館日:月曜日(ただし7月21日(月・祝)は開館)

■入場料:一般1500円、高校・大学生1000円、小・中学生500円

■公式サイト:http://balthus2014.jp/

■問い合わせ:050・5542・8600(ハローダイヤル)

主催:東京都美術館、NHK、NHKプロモーション、朝日新聞社

後援:スイス大使館、フランス大使館/アンスティチュ・フランセ日本

協賛:凸版印刷、三井住友海上

協力:エールフランス航空、スイスインターナショナルエアラインズ、全日本空輸、日本貨物航空

※この記事は、2014年3月17日朝刊掲載の紙面を元に再構成しました