約100年前、パリを拠点に、海外で成功を収めた日本人アーティストの先駆けとなった画家・藤田嗣治(つぐはる)(1886~1968)。没後50年の節目に、代表作約120点を集めた回顧展が、東京・上野の東京都美術館で開かれている。独自の技法や出品作を通して、その人生をたどる。

 ■26歳、仏に渡る 乳白色の裸婦、パリで評価

 藤田の代名詞と言えるのが、「乳白色の下地」による裸婦だ。白くて光沢のある滑らかな絵肌に、日本画に用いる面相筆で、黒く細く引いた輪郭線。独自性を模索して考案した。

 1913年、26歳で渡仏してしばらく風景画や静物画を手がけていたが、パリ美術界での流行も受け、藤田は本格的に裸婦に取り組んでいく。「乳白色の下地」は、繊細な白さと柔らかい質感の肌を描くのに最適な技法だった。

 「白は物の明暗、遠近の明るさを現すために用いられているが、白を白色として、その麗しさを生かしてみようと思った。今まで白を白色として生かしてかいた人はいなかったということに気がついた」。藤田はそんな風に述べている。

 21年の公募展「サロン・ドートンヌ」に、初めて裸婦を出品。画風の確立を印象づけ、20年代のパリで大きな評判を集めていった。

 抜けるような肌の白さから「ユキ」と呼んだフランス人女性リュシー・バドゥーを中央に描いた「舞踏会の前」など、藤田のパートナーだった女性たちも、モデルとして登場している。

 藤田は乳白色の下地の制作法を明かさなかったが、近年の研究でベビーパウダーに含まれるタルク(滑石粉)などが使われていたことがわかっている。

 ■終戦、NY滞在 祖国去り、再び制作に意欲

 二つの世界大戦や日中戦争に直面し、「私ほど、戦に縁のある男はない」と記した藤田。第2次世界大戦中に日本に帰国を余儀なくされると、軍部の要請で、戦意の高揚を図るための「作戦記録画」を盛んに描くようになる。終戦後、戦中の国策協力を糾弾される中、49年春に日本を去った。それから二度と祖国に戻ることはなかった。

 パリへ向かう途中、約1年を過ごしたのがニューヨークだ。戦時には乏しかった画材を潤沢に手にし、現地の美術館で見た西洋美術にも触発されて、60代になっていた藤田は制作活動への意欲を高揚させる。

 「美しいスペイン女」などは、額縁も自ら制作しており、妻の君代にも手伝わせたほどだったという。藤田の代表作となる「カフェ」を始め、滞在中に多くの名品が生み出された。現地の画廊で開いた個展も話題を集めた。

 パリへの思いを表すように、「猫を抱く少女」などの背景には、懐かしい街並みが描かれた。50年初めにパリに戻った藤田は、20年代の作品や「カフェ」など愛着のある作品をフランス国立近代美術館に寄贈した。今展の監修者で美術史家の林洋子さんは、これについて「母国との永別とフランス永住への決意が読み取れる」と話している。

 ■ランスで洗礼 宗教画に情熱、祈りの日々

 藤田は55年、68歳でフランス国籍を取得した。59年には君代と共に、北フランスのランス大聖堂でカトリックの洗礼を受け、敬愛するレオナルド・ダビンチにちなんだ洗礼名「レオナール・フジタ」を名乗った。

 それ以前からキリスト教をテーマにした作品はあったが、晩年はさらに研究を深め、自らの信仰の証しとして、より多くの作品を手がけていった。

 この頃描かれた「礼拝」では、聖母マリアの両側に、修道服姿で祈りを捧げる藤田と君代の姿があり、背後には、当時暮らした家なども描かれている。林さんは「パリでの最後の個展に出品した作品で、画家として手がけた集大成」と話す。

 最後の仕事になったのは、ランスにある「ノートルダム・ド・ラ・ペ(平和の聖母)礼拝堂」の内部の壁画だ。古典的なフレスコ画法を学び、壁画を完成させた約1年半後、療養先のスイスの病院で亡くなった。夫妻は現在、この礼拝堂に眠っている。(伊藤綾)

 ■10月8日まで、東京都美術館

 ◇10月8日[月][祝]まで、東京・上野の東京都美術館企画展示室。午前9時30分~午後5時30分(金曜は午後8時まで、うち8月の金曜は午後9時まで。入室は閉室の30分前まで)。月曜と9月18日[火]、25日[火]は休室(9月17日、24日、10月1日、8日は開室)

 ◇一般1600円、大学・専門学校生1300円、高校生800円、65歳以上1千円、中学生以下無料

 ◇展覧会公式サイト http://foujita2018.jp

 ◇問い合わせ ハローダイヤル(03・5777・8600)

 主催 東京都美術館(公益財団法人東京都歴史文化財団)、朝日新聞社、NHK、NHKプロモーション

 後援 在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ日本

 協賛 損保ジャパン日本興亜、大日本印刷

 特別協力 国際交流基金

 協力 東京美術倶楽部、日本航空、日本貨物航空

 ■今月末まで「丸めがね割引」

 藤田が愛用していた丸めがねにちなみ、31日[金]まで、「丸めがね割引」を実施しています。東京都美術館チケットカウンターで丸めがねを提示し、「丸めがね割引を利用する」と係員に伝えると、当日観覧料金から、めがね1本につき1人100円の割引になります。イラストは、しりあがり寿さんによる「フジタ画伯とねこ」。

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