全国を旅して念仏の教えを説いた鎌倉時代の僧、一遍(いっぺん)(1239~89)は、時宗(じしゅう)の開祖と敬われている。時宗の総本山である神奈川県藤沢市の清浄光寺(しょうじょうこうじ)(遊行寺〈ゆぎょうじ〉)が所蔵する全12巻の国宝絵巻「一遍聖絵(ひじりえ)」をはじめ、ゆかりの約130件を紹介する「国宝 一遍聖絵と時宗の名宝」展が13日、京都国立博物館(京都市)で始まる。一遍の跡を継いだ二祖、真教(しんきょう)(1237~1319)の700回忌の記念展でもある。

 ■旅して布教、「千年後も道しるべに」

 「一切を捨離すべし」。すべてを捨てなさいと諭す一遍の言葉は、不要な物を持たない生活スタイルの勧めのようだが、そうではない。あえて意訳すれば「心の中の壁をみな取り払いなさい」だろうか。

 長澤昌幸(ながさわまさゆき)・大正大学専任講師(時宗学)によると、一遍の教えは「すべて平等」に行き着く。思想や信仰、貧富、身分、性差などにかかわらず、だれもが阿弥陀仏(あみだぶつ)に救われることはすでに決まっている。阿弥陀仏から見ればみんな平等なのだから、我を張って、人と比べ、敵か味方かと色分けしても意味はない。

 こうした境地に一遍が至ったのは数え36歳。「一遍聖絵」が伝えるところでは、「教えを信じる人、信じない人、身分や男女などを区別しないで布教せよ」と熊野で神託を受けた。それから全国を巡り、その地の人たちに教えを説いた。聖絵は一遍の旅の記録である。

 絵と文章からなる12巻の絵巻をすべて広げると長さは約130メートルに。展覧会ではその全巻を、前期と後期に巻き替えて展示する。

 絵巻の近くで目をこらすと、各地の風景の中にたくさんの人が描き込まれている。老いも若きも、女も男も。京の都には牛車(ぎっしゃ)に乗った貴族がいて、裸同然で体が不自由そうな人もいる。高僧だからといって、一遍は高貴に描かれていない。

 亡くなる2週間ほど前に持っていた経文を譲り、書物は自ら焼き捨てた。「葬儀はするな」と生前に弟子たちに言い残し、静かに息を引き取ったと絵巻は伝える。11巻と12巻は一遍のみとりの記録でもある。

 没後10年たった1299年に「一遍聖絵」は完成した。高弟で絵巻にも登場する聖戒(しょうかい)が文を起草し、円伊(えんい)という絵師が描いたと伝わる。「千年後の人々の道しるべにもなるだろう」。こう絵巻は結ばれている。(森本俊司)

 ◆キーワード

 <一遍と真教> 一遍がふるさと伊予国を出て、遊行の旅を始めたのは数え36歳の年。現在の岩手県から鹿児島県までを歩いて「南無阿弥陀仏」と書かれた念仏札を配り、数え51歳で生涯を閉じた。一遍の生涯を紹介する「一遍聖絵」には、念仏に合わせて激しく体を動かす踊り念仏に熱狂する各地の老若男女も描かれている。

 真教は数え53歳で教えを継承。甲信越を中心に遊行し、教団の基盤を固め、数え83歳で他界した。足跡は10巻の絵巻「遊行上人縁起絵」(国重要文化財)に描かれている。

 ◆13日から京都国立博物館

 ■13日[土]~6月9日[日]、京都国立博物館(京都市東山区茶屋町527)

 ■休館日 毎週[月]、5月7日[火] ※ただし、4月29日[月][祝]、5月6日[月][休]は開館

 ■開館時間 午前9時30分~午後6時。毎週[金]・[土]は午後8時まで。いずれも入館は閉館の30分前まで

 ■観覧料 当日一般1500円(前売り・20人以上の団体1300円)、大学生1200円(同千円)、高校生900円(同700円)、中学生以下は無料

 ■前売りは12日[金]まで、主要プレイガイドやコンビニエンスストアなどで販売

 ■問い合わせ テレホンサービス075・525・2473、同館ホームページhttps://www.kyohaku.go.jp/別ウインドウで開きます

 <主催> 京都国立博物館、朝日新聞社、時宗、時宗総本山清浄光寺(遊行寺)

 <協賛> 京阪ホールディングス、竹中工務店

 <協力> 仏教美術研究上野記念財団、日本香堂、楽浪文化財修理所

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