東京で開催中の「ムーミン展」は、世界中で愛される物語とキャラクターのオリジナルの姿に出会えると好評を得ている。小説や絵本の魅力にはじまり、ムーミンと作者トーベ・ヤンソン(1914~2001)の世界を約500点の展示で紹介している。会場を訪れた、ムーミンファンで知られる俳優、作家、テキスタイルデザイナーに聞いた。

 ■湿度ない個人主義が素敵 俳優・美村里江さん

 ムーミンを日本語に訳してくれた山室静さんたちを紹介したコーナーで、思わずお礼の言葉が出ました。彼らがいなければ、私はムーミンの世界をおもしろいと思わなかったかもしれないので。

 小学校に入るころに出会い、デビューしたころからはシリーズ全9作を毎年1回は読み返し、読んでみたいという方々へ全巻セットを9回はプレゼントしています。

 登場人物であこがれたのは、芸名にもした「ミムラねえさん」。女の子っぽいところがなかった私には、「わたし、ミムラに生まれて、ほんとうによかったわ」という彼女が正反対に思えたから。

 大人になって見る目が変わったのは、いつも不安定な「フィリフヨンカ」です。彼女の不安感は成人女性ならみな持っているもの。展示を見ると、あわてふためくときの躍動感を、トーベさんは愛情を込めて描いていますね。

 ムーミンの世界はくせのあるキャラクターだらけですが、仲良しこよしでなくても互いに寛容で一緒にいられる。「あなたはあなたでいい」と声高でなく、さらっと言ってくれる湿度のない個人主義が精神的ベースとして素敵で、元気のもとになります。

 シリーズ最初の「小さなトロールと大きな洪水」くらいを読んでから訪れてはいかがですか。これは戦時下に書かれた物語。後の作品が時代とともに明るく広がっていく様子がわかっておもしろいと思います。

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 みむら・りえ 俳優。1984年、埼玉県生まれ。「ムーミン」の仲間から取った芸名「ミムラ」で、デビュー作のテレビドラマ「ビギナー」に主演。昨年、「本家に名前を返して」現在の芸名に。映画「着信アリ2」「わが母の記」など出演作多数。

 ■緻密な創作過程に親近感 作家・森絵都さん

 もう完成しているような絵を何度も描き直し、各国語に翻訳されるたびに新たに描くなど、トーベの緻密(ちみつ)な創作過程と注いだエネルギーがわかる展覧会でした。私も小説を何度も書き直し、文庫化するときには随分手を入れるので親近感を持ちました。

 ムーミンシリーズは年齢によって感じ方が変わります。19歳で最初に読んだときは、自由なスナフキンやちびのミイにあこがれましたが、40代になると、ムーミンママが好きになりました。

 「ムーミンパパ海へいく」で、嵐の気配を感じたママはピクニックに行こうと提案します。不安を払うためのピクニック。すごい発想です。ママのような柔軟性、包容力、冒険心を持った人はいないでしょう。ムーミン谷は、ママでもっていると思っています。

 トーベの戦時下の経験を投影してか、ムーミンの世界には洪水や彗星(すいせい)衝突の可能性など災いごとがしょっちゅう起こります。ムーミンたちは恐れはしますが、大騒ぎはしません。他人を巻き込まず、個で立ち向かうところが一つの読ませどころです。そうした姿勢は、自然災害の多い日本では特に学ぶことがあると思います。

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 もり・えと 作家。1968年、東京都生まれ。「風に舞いあがるビニールシート」で直木賞受賞。著書に「カラフル」「DIVE!!」など多数。

 ■あふれる肉筆の迫力と情熱 テキスタイルデザイナー・鈴木マサルさん

 フィンランドで、ムーミン美術館にもトーベ・ヤンソン展にも行きましたが、今回、初めて見る展示品が多くて充実ぶりに驚きました。日本滞在中のスケッチなどを見ると、トーベが息をするようにさらさら絵を描いた人だと分かります。

 彼女はテキスタイルデザインでも専門的なスキルを完全にものにしています。癖のない構図と少ない色使いで絵柄を繰り返すルールを押さえて、専門家顔負けの仕事をしています。製品化される前のデザイン原画は、彼女の意図がわかる貴重な肉筆で、見ることができて感激しました。

 素敵な絵を残していてアーティストとしても素晴らしいけれど、どんな条件にもベストの作品を投げ返す器用で優秀なデザイナーだと思います。

 肉筆の迫力と魅力にあふれた展覧会です。ムーミンに関心がない人でも、トーベの情熱や多様性から何かを発見できると思います。

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 すずき・まさる テキスタイルデザイナー。東京造形大教授。1968年、千葉県生まれ。フィンランドのマリメッコ社のデザインを手がけるほか、ムーミンを用いた作品をユニクロなどで担当している。

 ■東京・六本木で 6月16日まで

 ◇6月16日[日]まで、東京・六本木の森アーツセンターギャラリー。午前10時~午後8時、火曜は午後5時まで(ただし4月30日は午後8時まで)。入館は閉館の30分前まで。会期中無休

 ◇一般1800円、中学・高校生1400円、4歳~小学生800円、3歳以下無料

 ◇問い合わせ ハローダイヤル03・5777・8600

 ◇公式サイト https://moomin-art.jp

 <主催> 朝日新聞社、森アーツセンター

 <後援> フィンランド大使館

 <協賛> NISSHA

 <協力> ライツ・アンド・ブランズ、S2、フィンエアー、フィンエアーカーゴ

 ◆この特集はソウ喜郁が担当しました

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