19世紀末のウィーンの巨匠グスタフ・クリムト(1862~1918)の画業を紹介する「クリムト展 ウィーンと日本1900」が東京・上野の東京都美術館で開催中だ。スペシャルサポーターで、音声ガイドも務めた俳優の稲垣吾郎さん(45)と会場を歩き、作品への思いについて聞いた。

 ■ベートーベンへの敬意、感じる

 稲垣さんは、昨年の舞台「No.9―不滅の旋律―」でベートーベン役を演じた。演じる前にオーストリアを訪れて、ゆかりの地をたどった。合間に美術館を訪れ、クリムトの作品に出会った。「そのとき、圧倒的な存在感に心を奪われて。今回スペシャルサポーターとしてかかわることになり、不思議な縁を感じています」と話す。

 展覧会で楽しみにしていたのが、ベートーベンの「交響曲第9番」をテーマにした全長約34メートルの壁画「ベートーベン・フリーズ」の精密な原寸大複製だ。金箔(きんぱく)を使い、華やかな装飾をほどこす「黄金様式」の代表作の一つで、オリジナルはクリムトら若手芸術家が活動する拠点とした「ウィーン分離派会館」に今も飾られている。

 稲垣さんは展示室に入って左側の壁から絵巻物のように続く作品を、ゆっくりと目で追っていった。「歩きながら流れで見ていく良さがありますね、ストーリー展開の間に余白もあって。これはやっぱり画集で見るものではないなと思いました。今回は複製といえども、こちらに飾ってあるのはラッキーなことです」

 絵の構成はこうだ。まず、幸福を求める人々に寄り添う精霊が空を舞って進む。そこに現れるのが、黄金の甲冑(かっちゅう)をまとった騎士。苦しむ人たちから懇願され、敵対する悪の化身らに立ち向かう。最後にたどり着く楽園は、天使たちの歓喜の歌に包まれ、抱擁する恋人たちは幸福に満たされる――。

 保守的な画壇に対抗し、「ウィーン分離派」として新しい芸術表現に挑んだクリムトの思いも込められていると考えられている。

 「女性が飛んでいるような表現は不思議な感じがしました。人の欲望や誘惑を描いた部分もすごいです。装飾として石が埋め込まれていて、そういった細部にも感激しました」。ウェーブする髪のりりしく立つ騎士は、稲垣さんの姿と重なる。

 最もひかれたのは、最後の部分だという。「『歓喜の歌』にたたえられ、人々に幸福感がもたらされる感動的なクライマックス。長い曲で、ベートーベンも着想から完成までに何十年もかかりました。それをあの長さの絵でみせるのは圧巻です。クリムトのベートーベンに対する敬意を感じました」と話す。

 会場内をくまなく歩き、気に入った作品にじっくりと見入っていた稲垣さん。「これからプライベートで展覧会に何度も足を運びたい。集中して自分の音声ガイドを聞いていたら、みなさん声をかけずにそっとしておいて下さいね」(森本未紀)

 ◆キーワード

 <ベートーベン・フリーズの原寸大複製> 1984年、オリジナル作品がオーストリア政府によって修復された際に制作された。現在はウィーンのベルベデーレ宮オーストリア絵画館が所蔵している。装飾で使った石などほとんど同じ素材で再現されており、複製ながらオリジナルの特徴を細部まで知ることのできる貴重な作品だ。本展では、ウィーン分離派会館にある実物の展示を再現している。展示室に入って左側が、騎士が現れる第1の壁「幸福への憧れ」、正面奥には第2の壁「敵対する力」、右側が第3の壁で歓喜の歌を合唱するクライマックスが描かれる。

 ■朝日新聞デジタルに、稲垣吾郎さんの一問一答(http://t.asahi.com/vse6)を掲載しています。

 ■7月10日まで、東京都美術館で

 ◇7月10日[水]まで、東京・上野の東京都美術館企画展示室。午前9時30分~午後5時30分(金曜は午後8時まで)。入室は閉室の30分前まで。6月3日[月]、17日[月]、7月1日[月]は休室

 ◇一般1600円、大学生・専門学校生1300円、高校生800円、65歳以上1千円、中学生以下無料。6月1日[土]~14日[金]は大学生・専門学校生・高校生無料

 ◇音声ガイド550円(1人につき1台)

 ◇展覧会公式サイト https://klimt2019.jp

 ◇問い合わせ ハローダイヤル(03・5777・8600)

 ※7月23日[火]~10月14日[月][祝]、愛知・豊田市美術館に巡回

 <主催> 東京都美術館(公益財団法人東京都歴史文化財団)、朝日新聞社、TBS、ベルベデーレ宮オーストリア絵画館

 <後援> オーストリア大使館、オーストリア文化フォーラム

 <協賛> ショップチャンネル、セコム、損保ジャパン日本興亜、大日本印刷、竹中工務店、トヨタ自動車、三菱商事、パナソニック、みずほ銀行

 <協力> 全日本空輸

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