漢が衰退した2~3世紀にかけて、魏・蜀・呉の三カ国が覇権を争い、曹操や劉備(りゅうび)ら、あまたの英雄が活躍した「三国志」の時代。ゲームや小説、映画などでも繰り返し描かれるこの時代を、実際の考古資料から概観する特別展「三国志」が7月9日、東京国立博物館で開幕する。展覧会を前に、ゆかりの地を訪ねた。

 ■曹操の巨大な墓、実は質素だった

 中国最古の王朝の一つといわれる殷(いん)の都の遺跡が残る河南省安陽市は、北京の南500キロにある静かな町だ。その中心から車で40分ほどの場所に「曹操高陵」はある。訪れた5月末、約2万2千平方メートルに及ぶ広大な敷地で、工事が急ピッチで進められていた。

 建設中なのは、巨大な墓を丸ごと取り込んだ「遺跡博物館」。あたり一帯は元々は麦畑だったという。工事車両がひっきりなしに出入りして土ぼこりが舞い、まったく面影がない。

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 <「遺言そのままに」> 発掘が始まったのは2008年。河南省文物考古研究院などの調査で、魏の礎を築いた三国志の英雄、曹操(155~220)のものだと判明した。

 曹操の墓の場所については諸説あったが、1998年に現地近くでその場所を示す墓誌が見つかり信憑(しんぴょう)性が高まった。06年に盗掘跡が見つかったのを機に考古研究院が調査に入り、曹操を意味する「魏武王」の文字が刻まれた石牌(せきはい)や、石枕、鉄鏡などが確認された。曹操が葬られた2号墓の面積は736平方メートル。前室、後室など6部屋からなり、墓道は40メートルの長さがある。

 一帯はいま、建設ラッシュにわく。近くで農業を営む呉計明さん(54)は「曹操のおかげで人が大勢来て、この土地が潤えば何よりだ」と期待を込める。関連施設を建てるためと言われ、周辺の農地を提供したという。

 曹操――。多くの日本人が知る物語「三国志演義」などでは、主君にあたる漢の皇帝を利用した狡猾(こうかつ)な悪人のイメージが強いが、この墓からは異なる人物像が見えてくる。「墓の規模こそ大きいものの、遺物も珍しい宝などはなく、『墓は質素に』という彼の遺言そのままの状況でした」と発掘に関わった考古研究院の潘偉斌研究員。

 そんな出土品から今回、「魏武王」の石牌、土器の一種の鼎(てい)、髪飾りの一種とされる釵(さい)、世界最古となる可能性がある白磁の罐(かん)など、遺骸の周囲を飾ったと考えられる品が出品される。

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 <呉の石室に木棺が> 魏晋南北朝史が専門の関尾史郎・新潟大学人文社会科学系フェローによると、中国では従来、三国志の時代の考古遺物への関心は必ずしも高くなかった。近年重要な発掘成果が相次いだことで、「だいぶ状況が変わってきた」という。

 そんな一つが江蘇省南京市で05年に見つかった上坊1号墓だ。南京は呉の都・建業だった土地。墓までは市街地から車で30分ほど。周囲はかつて農村だったが、工業団地が広がる。

 復元整備中のため非公開となっている墓の内部に入れてもらった。薄いれんがをドーム状に積み上げる構造で、全長約20メートル。石室の照明がつくと、出土当時のまま残された木棺の破片が浮かび上がった。三国時代の墓としては最大級で、その規模や丁寧なつくりから呉の皇族の墓と考えられている。

 本展には、木棺を支えていた「虎形棺座(とらがたかんざ)」などが出品される。また、同じ上坊所在の墓から盗掘で出土した「神亭壺(しんていこ)」は鳳凰元(272)年の銘があり、家屋などを表した青磁の逸品だ。

 「三国志演義」では蜀の武将・関羽をとらえたとされる呉の将軍・朱然(182~249)の墓(安徽省馬鞍山市)の出土品も来日する。漆器の名品「童子図盤」は、裏に「蜀郡」の文字があってかの地の製作とわかるが、どうやってもたらされたかは謎だ。

 本展の準備は3年前から始まった。「この時代は資料数が多いので、短い調査期間でどれだけの出品候補を探し出せるか、苦労の連続だった」。企画した東京国立博物館の市元塁・主任研究員はそう振り返る。

 今回の会場には曹操高陵の墓室が原寸大で再現されるなど、こだわりも十分。実物資料が語る「リアル三国志」の世界が存分に楽しめるはずだ。(編集委員・宮代栄一)

 ■来月9日から東京・上野で

 ◇7月9日[火]~9月16日[月][祝]、東京・上野の東京国立博物館平成館。午前9時30分~午後5時(金、土曜は午後9時まで)。入場は閉館の30分前まで。月曜および7月16日[火]は休館(ただし7月15日、8月12日、9月16日は開館)

 ◇前売り一般1400円、大学生1000円、高校生700円(当日券は各200円増)。グッズセット前売券など、チケット情報は公式サイト(https://sangokushi2019.exhibit.jp/)

 ◇問い合わせ ハローダイヤル03・5777・8600

 <主催> 東京国立博物館、中国文物交流中心、NHK、NHKプロモーション、朝日新聞社

 <後援> 外務省、中国国家文物局、中国大使館

 <協賛> 大日本印刷、三井住友海上火災保険、三井物産

 <協力> 飯田市川本喜八郎人形美術館、コーエーテクモゲームス、日本航空、光プロダクション

 ※10月1日[火]~2020年1月5日[日]、九州国立博物館(福岡県太宰府市)に巡回

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