1969年の公開から50年となる人気映画「男はつらいよ」シリーズ。今年12月には22年ぶりに新作となる第50作「男はつらいよ お帰り 寅さん」が公開されます。これを記念し、朝日新聞社は東京・日本橋の三越本店で、撮影時の小道具や台本などを展示し、これまでの軌跡をたどる「みんなの寅さん展」を7日から19日まで開催します。展覧会の詳細を紹介するとともに、原作者の山田洋次監督(87)に「なぜ、いま寅さんなのか」を聞きました。

 ■自由ではた迷惑、そんな人間も認めて 山田洋次監督インタビュー

 ――50作目の「男はつらいよ」が今年の暮れに公開されます。なぜ撮ろうと思ったのでしょう。

 これまでの49作のフィルムをつなげて回すと3日分くらいの長さになります。それを1本の作品に編集したらどうなるだろう、と前から考えていました。

 どういうコンセプトでまとめればいいのかということですが、(寅さんの甥〈おい〉の)満男(吉岡秀隆)と、恋人だった泉(後藤久美子)が再会するという柱を立てれば物語が展開するのではないかと思いました。満男は結婚して子どもがいるが、奥さんが亡くなって独身。泉も結婚して海外で暮らしている。そんな2人が出会うラブロマンスにしてみては、と。

 ――制作を決めたのはいつごろですか。

 昨年です。いま、できあがった作品を見ると不思議な映画になりました。それぞれの俳優の50年分のドキュメンタリーを見ているようなのです。そこに全然年をとらない寅、幻想的な寅が現れる。いままでたくさん映画を作ってきましたが、こんな不思議な思いは初めてです。

 ――主人公の寅さん(車寅次郎)を演じた渥美清さんは1996年に亡くなっています。代役は考えませんでしたか。

 そんなことまったく考えられません。渥美さんの代わりはありえない。

 ――若い人に映画を通じてどんなメッセージを伝えたいですか。

 寅のようにはみ出した人間、人口統計にも入るか入らないか分からないような人間を容認すること、考え方も行動も自由でめちゃくちゃで、はた迷惑な人間も排除してはいけないということです。

 寅は、阪神淡路大震災のボランティアに参加したことがあって(48作「寅次郎紅の花」)、ああいう非常事態では役に立つ存在になる。彼が、組織にとらわれない自由な人間だからなんです。

 いまは非常に窮屈な時代です。組織であれ地域であれ、ゆとりがなくなりました。「しょうがないな。目をつぶっておくよ」と言う人がいなくなった。寅は余剰人員そのものかもしれません。ですが、「困ったやつだな」と言いながらそういう人間を認めるという寛容さが今の時代には大事なんです。

 ――寅さんは誰にでも声を掛けます。

 悲しい顔をしている人を見かけると、「何か困ったことがあるのかい」と尋ねる。誰とでもすぐ友だちになれる、誰とでも会話を交わすということがいまの人はできなくなってきた。映画館で隣に座った人がうるさかったら「静かにして下さい」と直接言えばいいんだけど、支配人のところに言って告げる。何かあると警察に訴える。ネットに書き込む。そんな社会になっているようです。

 ――寅さんの言動は、ときに哲学者のようです。

 いまの若い人は、何か質問されると、答えが正しいかどうかを検討してから答える。「正解です」というような言い方をよく聞く。それではAI(人工知能)と変わらないのではないでしょうか。正解かどうかではなく、自分の感じ方や心を通して答えるのが寅なんです。(聞き手 編集委員・小泉信一)

 ■燃えるような恋をしろ

 「みんなの寅さん展」では、「男はつらいよ」の魅力を、印象に残るセリフや名シーンの映像、数多くの撮影小道具などで振り返る。

 映画の見どころは、「フーテンの寅さん」こと車寅次郎の自由な旅と、マドンナとの恋。浅丘ルリ子、栗原小巻、吉永小百合、竹下景子……、日本の映画史を彩る名女優42人が演じたマドンナを紹介しつつ、恋の名シーンを上映。「『男はつらいよ』の幸福論」の著作がある精神科医・名越康文さんによる「恋と心に効く名セリフ」解説コーナーもある。

 ■風の吹くまま、気の向くまま

 縁日などで露店を出して物を売る、テキ屋の寅さん。気ままな“フーテン”暮らしの旅先などで、魅力的なマドンナに出会っては恋に落ち、浮かれて一騒動を起こすのがおなじみのパターンだ。

 全49作にわたって故・渥美清さんが主演し、同一俳優が演じた最長の映画シリーズとしてギネス世界記録にも認定された。

 展覧会では、格子柄の背広や腹巻き、トランクなどの衣装、小道具一式が展示される。展示品とは別に、帽子やトランクを持って、撮影できるフォトスポットも。寅さんになりきる楽しみを味わうことができる。

 ■私、生まれも育ちも葛飾柴又

 寅さんの故郷は、今も下町情緒が色濃く漂う、東京都葛飾区の柴又。帝釈天参道の老舗団子屋で待つ、母親違いの妹さくらと、おいちゃん、おばちゃんのもとに旅から帰ってくるところから物語は始まる。めったに帰ってこない寅次郎を皆は温かく迎えるものの、おっちょこちょいでケンカっぱやい寅さんは、ささいなことでケンカをしては居づらくなり、また旅に出ていく。

 会場では、団子屋の居間セットを忠実に再現。当時高級品だったメロンの切り分けをめぐり大げんかになる有名な「メロン騒動」の映像などを見ながら、今にも寅さんが現れそうな空間を楽しめる。

 ■けっこう毛だらけ、猫灰だらけ

 名優・渥美清さんの魅力がさえる、啖呵売(たんかばい)にも注目だ。「四谷、赤坂、麹町、チャラチャラ流れる御茶ノ水、粋なねえちゃん立ちションベン」など韻を踏んだかけ声や話術で物を売る。渥美さんは少年時代に憧れたテキ屋の売り様を生き生きと語っていた。山田監督はその姿を見て、「車寅次郎」のイメージを膨らませたという。

 会場では、十三代目片岡仁左衛門演じる人間国宝の陶芸家に、寅さんが売りつけようとしたがらくたの古美術品などの小道具を映像・セリフパネルと共に展示。現代ではなかなか聞けない口跡の鮮やかさ、言葉遊びの面白さを堪能することができる。

 ■あすから、東京・日本橋三越

 ◇7~19日、東京・日本橋三越 本館7階催物会場。午前10時~午後7時(最終日は午後6時まで)。入場は閉場の30分前まで。会期中無休

 ◇一般・大学生800円、高校・中学生600円、小学生以下無料

 主催 朝日新聞社 企画協力 松竹

 ◇問い合わせ 日本橋三越本店(03・3241・3311)

 ◇公式サイト https://www.mitsukoshi.mistore.jp/nihombashi/event_calendar/torasan.html別ウインドウで開きます

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