日本海の潮風薫る兵庫・香住(かすみ)にある真言宗大乗寺(だいじょうじ)は「応挙寺」の別名で親しまれている。東京・上野の東京芸術大学大学美術館で開催中の「円山応挙(まるやまおうきょ)から近代京都画壇へ」では、応挙が門弟12人を率いて制作した大乗寺客殿の襖絵(ふすまえ)群を特別公開、客殿の一部を各室の構成そのままに立体展示している。「応挙さんは優れた空間プロデューサーだった」と語るのは、寺宝を守り伝える大乗寺副住職の山岨眞應(やまそばしんのう)さん(66)だ。

 ■廊下越し、自然と一体

 大乗寺は745(天平17)年、行基によって開かれたと伝わる。応挙一門による障壁画プロジェクトが始動したのは1787(天明7)年、大乗寺の客殿建設に際してのこと。8年後、全165面の襖絵が真新しい客殿を彩った。

 仏間の木造十一面観音立像を中心とする客殿について、山岨さんは仏の世界を想起させることを意図した「立体曼荼羅(まんだら)」であると指摘する。いわく、仏間の四方に位置する各部屋の意匠は農耕や政治、芸術など、東西南北に住む仏教の守護神、四天王を象徴。応挙が最晩年に手がけた孔雀(くじゃく)の間の「松に孔雀図」は阿弥陀如来を表すという。

 孔雀の間では、襖絵を背にして座ると廊下越しに庭の風景が広がる。「絵画の虚の空間が実景とつながり、自然と一体化する。襖絵はじっと見つめるのではなく、背中で感じるのがいい」と山岨さん。松と孔雀の羽は微妙に色調の違う墨で描き分けられ、襖の開閉に伴って表情を変える松の枝ぶりとともに、見る者の想像力を刺激する。

 客殿の襖絵は2009年、保存のため一部を除いて収蔵庫に移された。現在は複製画で応挙の空間構成の妙を楽しめる。

 「絵なんて興味なかった」という山岨さんは理系の元研究者。結婚を機に仏門に入り、襖絵とともに寝起きする日々の中で「応挙さんの気持ちがわかるようになった」と語る。思いをはせるのは「空間を描く」という、次元を超えて写実に挑んだ絵師の願いだ。(田中ゑれ奈)

 ■9月29日まで、東京芸術大学大学美術館

 ◇9月29日[日]まで、東京芸術大学大学美術館(東京都台東区上野公園12の8)。午前10時~午後5時。入館は閉館30分前まで。月曜休館(祝休日は開館、翌日休館)

 前期(~9月1日[日])・後期(9月3日[火]~9月29日[日])で展示替え

 ◇一般1500円、高校・大学生1千円、中学生以下無料

 ◇展覧会公式サイト https://okyokindai2019.exhibit.jp/別ウインドウで開きます

 ◇問い合わせ ハローダイヤル03・5777・8600

 主催 東京芸術大学、朝日新聞社

 後援 台東区

 協賛 岡村印刷工業

 ※11月2日[土]~12月15日[日]、京都国立近代美術館へ巡回

イベントピックアップ

特集