英国が誇る印象派・ポスト印象派の殿堂コートールド美術館の展覧会へようこそ。耳慣れない名前かもしれませんが、マネ、モネ、ルノワール、セザンヌ、ゴーギャン……みなさんが大好きな巨匠の傑作をそろえる美術館です。本拠地の改修を機に、実業家コートールドが築いたコレクションから約60点を携え、約20年ぶりに日本でお目にかかります。さあ、めくるめく美の舞台へ――。

 ■富と審美眼で築いたコレクション

 レーヨンの製造・国際取引で莫大(ばくだい)な富を得たサミュエル・コートールドは、展覧会で印象派を目にし、見る者の直感に訴えてくる魅力のとりこになった。

 英国内で印象派やポスト印象派がそれほど評価されていなかった1920年代、自らの目で見て気に入った作品を次々と購入し、10年足らずでコレクションの大半を築いてしまった。

 社会貢献に力を入れるキリスト教の一派ユニテリアンの信者だったこともあり、芸術の素晴らしさを国民と分かち合うことを願った。このため、個人コレクションと並行し、私財を投じ国立美術館に作品を納めることにも尽力。ゴッホの「ひまわり」がナショナルギャラリーにあるのも彼の功績だ。

 ロンドン大学に美術研究所が出来ることが決まると、コレクションの多くを寄贈。1932年、研究所の付属機関としてのコートールド美術館が、産声を上げたのだった。美術館はその後移転を経て、現在はテムズ川のほとりにある。

 ■主題・構図、光る革新性

 マネは、古典のイメージを借りながら都市生活を主題にしたり、遠近法にとらわれない平面的な表現を突き詰めたりした「近代絵画の創始者」。コートールド美術館のカレン・セレス学芸員によると、コートールドは、歴史や宗教の世界ではなく同時代の現実を描くという革新性にひかれたようだ。スキャンダラスな話題を呼んだ「草上の昼食」も、モデルは理想化しない現実的な裸体だった。

 コートールドは、世界的な知名度を誇る「フォリー=ベルジェールのバー」のほか、代表作「草上の昼食」(オルセー美術館所蔵)と同名の小型版などを購入した。本展では、作品の構図の検討のために制作したとされる、この小型版も紹介する。

 マネの作品群は、コートールド美術館で調査や研究が手厚くされており、特にフォリーはX線撮影の結果、何度も構図が変更されたことが分かっている。

 ■ポエムも捧げた傑作

 コートールドが46歳の時、コレクション第1号として1922年に購入した作品は、ルノワール最晩年の「靴紐(くつひも)を結ぶ女」だった。画家が亡くなってまだ3年。コートールドはほぼ同時代の作家の作品を選んだといえる。残されている写真を見ると、この作品は自邸にかけられ日々鑑賞されていたようだ。

 コートールド美術館のルノワールは、点数は少ないながらも、画業を振り返る時に欠かせない傑作がある。「桟敷席」はまさにその一つ。コートールドは「フォリー=ベルジェールのバー」と並ぶ最高額の約11万ドルで買い、ほれこむあまり自作のポエムも捧げた。題材はパリの劇場で、1874年の第1回印象派展に出された。オペラグラスの男、中央で着飾った女は、どちらも舞台を見ていない。観客たちもまた見られる存在だった。そんな視線の戯れが描かれている。

 ■魔法の力に魅せられて

 「近代絵画の父」セザンヌは、複数の視点からの物の見え方を組み合わせて対象を描き、ピカソのキュービスムなどにも絶大な影響を与えた。その作品に初めて出会った時の印象をコートールドはこう記す。「魔法のような力に気づき、それ以来ずっと魅力を感じている」。生涯を通して最も多く購入した画家になった。

 11点の油彩のほか、水彩、手紙まで集め質・量ともに英国一のコレクションを築き、英国のセザンヌ評価の確立に大きな役割を果たした。本展ではセザンヌは10点が来日する。

 「キューピッドの石膏(せっこう)像のある静物」は、初のセザンヌ購入作品で、コレクションをほとんど美術館に寄贈した後も亡くなるまで手元に置いた。早くも大正時代に日本に紹介されている「大きな松のあるサント=ヴィクトワール山」、人物群像の代表作「カード遊びをする人々」など、展示作家で最大のボリュームになる。収集家の愛ゆえのことである。

 ■南国、謎めくモチーフ

 コートールドが最初に購入したポスト印象派がゴーギャンだ。最終的には18点を集め、英国随一に。本展では、絵画3点と彫刻が登場する。

 タヒチ滞在時代の油彩2点はともに謎めいている。裸婦を描いた「ネヴァーモア」は別の絵に上書きされたため傷みやすく、館外にほとんど出たことがないという。裸婦の背後には、ゴーギャンが「悪魔の鳥」と呼んだ動物や、ささやきあう2人がいる。果たしてそれは、悪霊か人か。

 船の出航を待つ10日ほどで制作された「テ・レリオア」は、タヒチ語で「夢」の意味。装飾的な画面に不思議なモチーフが詰まっている。

 ■10日から上野・東京都美術館で

 ◇10日[火]~12月15日[日]、東京・上野の東京都美術館企画展示室。午前9時30分~午後5時30分(金曜と11月2日[土]は午後8時まで)。入室は閉室の30分前まで。月曜および9月17日[火]、24日[火]、10月15日[火]、11月5日[火]は休室(ただし9月16日、23日、10月14日、11月4日は開室)

 ◇一般1600円(前売り1400円)、大学生・専門学校生1300円(1100円)、高校生800円(600円)、65歳以上1千円(800円)、中学生以下無料

 ◇展覧会公式サイト https://courtauld.jp

 ◇問い合わせ ハローダイヤル(03・5777・8600)

 <主催> 東京都美術館(公益財団法人東京都歴史文化財団)、朝日新聞社、NHK、NHKプロモーション

 <後援> ブリティッシュ・カウンシル

 <協賛> 凸版印刷、三井物産、鹿島建設、ダイキン工業、大和ハウス工業、東レ

 <協力> 日本航空

 ※本展の図録(税込み2500円)は開幕日以降、通販サービス朝日新聞SHOP(https://shop.asahi.com/)でも販売します

 ※2020年1月3日[金]~3月15日[日]に愛知県美術館(名古屋市)、3月28日[土]~6月21日[日]に神戸市立博物館へ巡回

 ◇作品はいずれもコートールド美術館蔵 (C)Courtauld Gallery(The Samuel Courtauld Trust)。肖像写真は Image:The Courtauld Gallery,London

 ◆この特集は木村尚貴が担当しました

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