伝統工芸の優れた技と美を競う国内最大規模の公募展「日本伝統工芸展」の第66回展が、18日から東京・日本橋三越本店で開かれる。陶芸、染織、漆芸、金工、木竹工、人形、諸工芸の7部門に、全国から1371点の応募があった。このうち入賞した16点を含む入選作品576点と、日本工芸会員の遺作2点を展示する。審査委員らに優秀賞7作品の魅力を中心に解説してもらった。

 ■陶芸

 日本工芸会総裁賞「花文(かもん)大鉢 『椿(つばき)』」 望月集(58)=東京都中野区

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 大輪の椿(つばき)の花、花、花。ほぼ直線状に開くだけの抑えた造形の大鉢に、やや上から見れば、椿の花々の世界が現れる。器の内と外。別世界のはずの両者が一体となり、三次元絵画が生まれた。かつて乾山も作った立体絵画を、望月は独自の表現へと昇華させる。薄い長石釉(ちょうせきゆう)による素地の表情と焼締(やきしめ)の黒灰色。異なった地色から、日差しの中の、あるいは日陰の椿が現れる。緑葉は厚みある長石釉として、そこに赤い椿の花、花芯の金泥が鈍く光る。

 (伊藤嘉章・愛知県陶磁美術館総長)

 ■木竹工

 文部科学大臣賞「栓拭漆三足器(せんふきうるしさんそくき)」 甲斐幸太郎(42)=大阪市

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 刳物(くりもの)は、用材の特質をよく見極め、肌の美しさや木目を生かす造形とすることに創意が現れる。本作品は、奥方のとがりのある曲面とそれに向き合う輪花の葉形が生み出す、豊かな膨らみの楕円(だえん)盛器である。作家は蓮(はす)のふっくらとしたつぼみと実をモチーフにしたという。入念な刳りの技と丹念な拭漆(ふきうるし)を相乗させ、きりっとして滑らかな光沢の造形を獲得している。栓という軽く軟らかい肌合いの木の特質をよく生かし、厚みのある器胎(きたい)に太い三足をこしらえながら、重厚すぎることなく、清新さを醸す優作としている。

 (諸山正則・工芸史家)

 ■染織

 朝日新聞社賞「生絹(すずし)着物 『海の中のできごと』」 神谷あかね(34)=愛知県岡崎市

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 精練しない張りのある絹糸を用い、透明感と軽やかさを生かした作品である。また、織りの制約に模様の広がりを見せる絣(かすり)の技法で、海に泳ぐ魚を抽象化し「海の中のできごと」という作者の思い描く情景へと展開した。

 着物の様式美の形に背から広がる白場は、海中に差し込む光を連想させ、明暗による大胆な模様構成の柱となる。そこに配される細い黄と水色の経縞(たてじま)が濃いインド藍の緯絣(よこがすり)に色相の変化として美しく映え、豊かな表現となった。

 (鈴田滋人・重要無形文化財「木版摺更紗(もくはんずりさらさ)」保持者)

 ■金工

 日本工芸会会長賞「吹分長方盤(ふきわけちょうほうばん)」 般若泰樹(47)=富山県高岡市

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 黄色の真鍮(しんちゅう)系と黒色の朧銀(おぼろぎん)系の金属を同時に溶解し、鋳造型のなかに交互に鋳込み、二つの金属が混ざり合った偶然性の高い文様をつくりあげる「吹き分け技法」の作品だ。

 文様は水や空気の流れ、わき上がる雲など自然の情景を想像させる。足つきの盤という新しい形状に挑戦しているが、薄く仕上げたことで、金属のもつシャープな美しさと軽やかさを感じさせるフォルムだ。香合や香炉を飾る台、さらには食器としても使うことができる。

 (中川衛・重要無形文化財「金工」保持者)

 ■諸工芸

 高松宮記念賞「泥ゆう七宝花入(どろゆうしっぽうはないれ) 『律』」 河田貴保子(68)=埼玉県北本市

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 下部を絞った立ち姿が明快だ。特徴であるつや消しの色の中に、アルファベットか古代文字を想起させる真鍮(しんちゅう)線の文様が面白い。翡翠(ひすい)色がこの作品を際立たせ、隠し味のベンガラの赤など作者の構成力が開花した作品となった。

 我々の仕事は器物に装飾を加えるということが主であるが、その材の特徴は何か、形を考え、文様を加えている。そして、錬磨された「技」によって表現される。身についた技は離れることはない。技から技が生まれ、新しいアイデアが再び生まれてくることになるから。

 (白幡明・ガラス工芸作家)

 ■漆芸

 NHK会長賞「彩切貝蒔絵乾漆筥(いろきりがいまきえかんしつばこ) 『月の韻』」 三好かがり(65)=神奈川県鎌倉市

 東京都知事賞「沈金飾箱(ちんきんかざりばこ) 『一夜』」 鳥毛清(64)=東京都江東区

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 「月の韻」は、「枕草子」の「夏は夜。月のころはさらなり、闇もなほ蛍……」がテーマである。月をかたどった金沃懸地(きんいかけじ)の蓋(ふた)、螺鈿(らでん)の青白い輝きに金色の貝で月の光が降り注ぐ情景を表した。「一夜」は奥能登の初夏の風景だが、一晩で燃え尽きる蛍の生命がテーマである。あえて器形を複雑にして、内部の絵付けを難しくすることで自らの技量を試した。「工芸は技術ではない。感動こそ超絶技巧だ」と鳥毛清は言う。偶然ながら2作品共に「蛍の多く飛びちがいたる」夏の夜の情景である。

 (内田篤呉・MOA美術館館長)

 【その他の入賞者】

 ■日本工芸会奨励賞(5点) 井口雅代「釉描彩雪笹文陶筥(ゆうびょうさいゆきざさもんとうばこ)」、岩井香楠子「型絵染(かたえぞめ)着物『春のはじまり』」、武部由紀子「刺繍(ししゅう)着物『あはひの空』」、藤江聖公「二十日大根金具」、長岡達雄「砂子風炉先屏風(すなごふうろさきびょうぶ)」

 ■日本工芸会新人賞(3点) 増原嘉央理「鉢『紅白鮮斜陽(こうはくせんしゃよう)―1907―』」、北芳子「木芯桐塑布紙貼(もくしんとうそぬのかみばり)『春の宵』」、小林昂平「被切子鉢(きせきりこばち)『潮流』」

 ■日本工芸会保持者賞 西勝広「沈金箱『梅花空木(ばいかうつぎ)』」

 ◆あすから日本橋三越

 ◇18日[水]~30日[月]、午前10時~午後7時(最終日は午後6時閉場)

 ◇東京・日本橋三越本店 本館7階催物会場(03・3241・3311)。入場無料

 主催 文化庁、東京都教育委員会、日本工芸会、NHK、朝日新聞社

 ※2020年1月22日[水]~27日[月]、仙台三越に巡回

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