東京都美術館(東京・上野)で開かれているコートールド美術館展で話題の「フォリー=ベルジェールのバー」。美しくも謎めいたバーメイドを主人公に据えた、マネの最晩年の傑作だ。名画の登場人物に扮するセルフポートレートで知られる美術家・森村泰昌さんがこのほど、観客をこの絵の主人公に変身させるワークショップを同館で行った。見えてきた絵の秘密とは。

 ■鏡の両側、虚実に惑う

 「フォリー=ベルジェールのバー」は、19世紀のパリで人気だったミュージックホールの群像を描いた作品だ。鏡を使ったその複雑な絵画空間にひかれた森村さんは、30年前、同作の登場人物になりきったセルフポートレートを制作した。

 森村作品では、名画の背景を舞台装置として組み立てる。森村さんは今回の展覧会で初めてフォリー=ベルジェールの実作を見て、30年来保管していた舞台装置と衣装を作り直した。

 「30年前はあらわな肌だと思っていたバーメイドの胸元に、レースが描かれていたことに気づいた。彼女は10代後半で、デビューして間もないくらいでしょう。大胆に肌を見せるには、まだためらいがあるからレースで隠す。それを忠実に再現しようと思った」

 絵の中の鏡に映るカウンターなども30年前はパネルに描画で仕上げていたが、今回は粘土などで立体に仕上げた。現実には立体なのに仕上がる写真では平面に見えるという、次元が行き来する複雑さが際だった。

 ワークショップは、倍率約30倍の公募を経て、20代~60代の女性3人が参加した。「チーム・モリムラ」のメイクアップ担当やスタイリストたちの手で、約1時間かけバーメイドに変身。絵に登場するシルクハットの男に扮した森村さんとともに、カメラに納まった。複数のカットを一枚の写真に合成し、最終的な作品が完成した。

 友人に勧められ応募した都内在住の会社員鶴田寛子さん(29)は、鏡に映るバーメイドと男の距離に驚いた。「撮影では、頬がついちゃうくらい近かったけど、写真になるとそこまでの距離を感じなかった。そう考えると、この絵はすごく不思議」と話した。

 イベントを通して、森村さんには気づきが生まれた。「バーメイドは、ただ立っているように見えるが、前のめりにならないと手がカウンターにつかず、あの姿勢にならない。一歩踏み出すようなところに、(どんな境遇にあっても)前に進もうとする彼女の意志を感じた」と話す。

 そしてもう一つ。

 「絵の中で鏡に映る虚像こそが現実で、鏡の手前側でこちらを見ているバーメイドは、彼女の心の内側を表した姿とも考えられる。虚実を逆転させているのかもしれない」。希代の美術家にも幻惑を呼び起こすマネの傑作。美術館で、ぜひ本物を見てほしい。(木村尚貴)

 ■東京・上野で来月15日まで開催

 ◇12月15日[日]まで、東京・上野の東京都美術館企画展示室。午前9時30分~午後5時30分(金曜と11月20日[水]、30日[土]、12月7日[土]は午後8時まで)。入室は閉室の30分前まで。月曜は休室

 ◇一般1600円など。詳しくは展覧会公式サイト(https://courtauld.jp別ウインドウで開きます

 ◇問い合わせ ハローダイヤル(03・5777・8600)

 <主催> 東京都美術館(公益財団法人東京都歴史文化財団)、朝日新聞社、NHK、NHKプロモーション

 <後援> ブリティッシュ・カウンシル

 <協賛> 凸版印刷、三井物産、鹿島建設、ダイキン工業、大和ハウス工業、東レ

 <協力> 日本航空

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