日本のモード、源流はここにあり――。日本ならではの美の世界を、色や模様で多彩に表した「きもの」。鎌倉時代から現代にかけて、その変遷をたどる特別展「きもの KIMONO」が、6月30日、東京・上野の東京国立博物館で開幕する。中核をなすのが安土桃山時代から江戸時代のきものだ。

 ■時代彩った色柄、おしゃれ心の源

 黒地に鹿の子絞りが施されたり、黄色地にうさぎ柄がデザインされたり。「婦女遊楽図屏風(びょうぶ)(松浦屏風)」に描かれるのは色柄多様な、きものをまとった遊女たちだ。彼女らはファッションモデルさながら市民のおしゃれの手本だった。安土桃山時代に好まれた華麗さが残る、江戸時代初期のモードを伝えている。

 こうしたきものは、現代のきものの原型とされ、江戸時代まで小袖と呼ばれた。平安時代後期までは庶民の実用着であり、武家や公家にとっては下着だった。時代とともに形式が変わり、中世半ばから近世にかけて表着になったことで、刺繍(ししゅう)や金銀の箔(はく)による華やかな文様が生まれた。

 安土桃山時代に流行したデザインのひとつが、全身を複数に区切った段模様だ。「縫箔(ぬいはく) 紅白段練緯地短冊八橋雪持柳(こうはくだんねりぬきじたんざくやつはしゆきもちやなぎ)模様」は、紅白の石畳模様に分けた地色にふっくらした刺繍が施されている。吉祥模様など定番柄は依然として人気だったが、雪が積もる柳といった自然を写実的にとらえた描写もこの時期から増えていく。関ケ原の戦いを契機に、戦乱の世から平和な時代になるにつれて変化した美意識の一例だという。

 江戸時代に入り、1620年に第2代将軍徳川秀忠の娘・和子(まさこ)が後水尾(ごみずのお)天皇に嫁いだことも、モードに影響を与えた。ファーストレディーとしてのファッションが注目され、きものの流行は京都からも発信されるようになった。

 和子が注文したきもののデザインは、やがて市中に広がった。寛文年間(61~73年)に流行したのは、左腰の部分を空けて弧を描くような躍動感あふれる柄だ。「小袖 白綸子地滝菊(しろりんずじたききく)模様」は岩間から脚付きの植木鉢にほとばしる滝と、その勢いとは対照に、かれんに咲く菊花のバランスが独特で遊び心がある。

 市民は流行を追いながら競うように着飾ったという。貞享年間(84~88年)になると扇絵師、宮崎友禅が描く扇の模様から派生した友禅模様が人気を呼ぶ。「振袖 紅紋縮緬地束熨斗(べにもんちりめんじたばねのし)模様」など、現代のきものを代表する友禅染のきっかけになった模様だ。

 続いて流行したのは、小袖屏風にも残る光琳模様。絵師、尾形光琳の名に由来し、梅や菊など花の形を花弁ではなく楕円(だえん)で表現するなど、簡略化した描線が好まれた。青や墨色を基調にしたシックな色みも特徴で、たびたびぜいたくを禁じた江戸幕府のもとで、簡素で洗練されたものを良しとする「粋」の美学にも通じていく。

 一枚のキャンバスに見立て、日本の四季や人々の好みを投影したきもの。遊女やファーストレディーをモデルに流行したファッションの延長線上に、今日の私たちの美意識はあるのかもしれない。そう思いをはせると、きものはぐっと身近な存在になる。(松沢奈々子)

 ■上野の東京国立博物館で

 ◇30日[火]~8月23日[日]、東京・上野の東京国立博物館平成館。

 午前9時30分~午後6時(最終入場は午後5時)。月曜と8月11日[火]は休館(ただし8月10日は開館)

 ◇前期は30日[火]~7月26日[日]、後期は7月28日[火]~8月23日[日]。展示替えあり

 ◇公式サイト https://kimonoten2020.exhibit.jp/

 ◇問い合わせ ハローダイヤル03・5777・8600

 主催 東京国立博物館、朝日新聞社、テレビ朝日、文化庁、日本芸術文化振興会

 協賛 タカラレーベン、竹中工務店、凸版印刷、トヨタ自動車

 協力 神戸ファッション美術館

 ※いずれも詳細は公式サイト、またはハローダイヤル

 ■事前予約制を導入します

 混雑緩和のため事前予約制(日時指定券)を導入します。公式サイト(https://kimonoten2020.exhibit.jp/reservation.html)から、事前に「日時指定+観覧セット券」(一般1700円、大学生1200円、高校生900円)を購入してください。23日午前10時から予約期間を区切って受け付けます。

 旧会期が記載された購入済みチケットや無料観覧券(期限付きを含む)を持っている人、中学生以下や無料入館対象者も、上記のサイトで「日時指定券」の予約が必要です(ただし障害者とその介護者1人は予約不要)。オンライン予約が難しい人向けに、東京国立博物館正門チケット売り場でも当日のみ有効の日時指定券を用意しますが、枚数が限られているため、事前のオンライン予約をお勧めします。

 ◆新型コロナウイルス感染拡大防止のため、当初予定していた会期(4月14日~6月7日)が変更になりました。今後も会期などに変更の可能性があります。また、入館にはマスクの着用が必要です。正門で検温を実施し、発熱などの症状がある場合は入館できません。ご理解とご協力をお願いします。

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