美術作品は、これまで博物館や美術館で時系列に沿って展示されてきた。美術の表現は、作品が作られた時代の文脈でしか評価できないものだろうか――。「古典×現代2020」は、同じ空間に江戸時代以前の古典作品と現代の作家によるアート、8組を展示する画期的な試み。展示室からは時代を超えて結びつく感性や価値観が見えてくる。

 ■仙がい義梵×菅木志雄 空間の「向こう側」へ

 円を描いた仙がいの掛け軸の前に、大きな輪形に立てた亜鉛板。床には方形に並んだ石と、天井からつり下げられた数個の石。

 亜鉛の輪や石の方形は、内側と外側の空間を区切る結界なのか。「もの」を提示することで、見る者に周りの空間についても認識させる。菅の手法が際立つ。

 仙がいの円について菅は「平面上ではなく、空間に描いているように感じる」と言う。「中空に描かれた仙がいの円は、こちら側と向こう側の空間の間に存在しているのではないか」。菅はその「こちら側」の空間を作った。展示室に立てば仙がいの円の「向こう側」も感じることができるかもしれない。

 ■仏像×田根剛 祈りと時間、光で演出

 天井からつられたランプが五つ、ガラスケースの脇をゆっくりと下りてくる。日光・月光菩薩(ぼさつ)が光に浮かび上がり、つかの間金箔(きんぱく)がきらめく。ランプが床に近づくにつれ光は届かなくなり、仏の姿は闇に消える。

 建築家の田根は、鎌倉時代に作られた仏像が経てきた時間を表現するために、上下に動く照明で、とめどなく変化する空間演出を考えた。

 仏像が普段安置されている滋賀県甲良町の西明寺で収録した声明も流れる。僧侶の祈りの声も調子を変えて終わりがない。像に込められてきた人々の祈りと時間を凝縮した濃密な空間は、建物のない寺院のようでもある。

 ■円空×棚田康司 1本の木と向き合う

 作品が立ち並ぶ空間は彫刻の林のようだ。円空と棚田は両者とも、1本の木からノミで像を彫り出す。

 棚田にはノミ跡から円空の動きが見て取れる。ある像は鼻の辺りから彫り始めているという。「のど元の辺りで刃が少し欠けた。でもそのまま一気に彫り進めています」。制作に集中する円空の姿が目に浮かぶ。

 棚田は自分の創作を、「1本の木という制約ある形の中で、自分の形を動かす作業」という。木の形をなぞったり壊したりしながら形を探す。円空の作品にも同じ葛藤を感じるという。

 ■花鳥画×川内倫子 水気まとう表現

 江戸時代の花鳥画に向き合った川内は「時間にしか作れない色」を感じたという。顔料を膠(にかわ)水で溶いて描いた画法に、日本の湿度が数百年間作用してできた古色は特別な趣だそうだ。

 川内の写真は、水気を含んだ空気越しに被写体を見るような、独特の淡い色合いを特徴とする。「水ににじんだような色が好き」という色彩感覚にも、知らず知らず自身の根ざす日本の風土がにじみでているのかも、と気づいたという。

 今回、川内はあえて新作を撮影していない。潤いを感じさせる両者の表現は、意図せず通じ合った。古今の共通する美意識を一層鮮やかに浮かび上がらせる。

 ■葛飾北斎×しりあがり寿 あふれる絵、めくるめく浮世

 4畳半で絵を描きためる北斎。やがて絵があふれ、北斎も部屋から飛び出す。音楽に乗って踊り出す北斎。背景には富士や滝、町人や象、おけ。彼が描いたあらゆるものが乱れ飛ぶ。しりあがりの新作動画は北斎の意欲と画業の壮大さをたたえている。「狭い部屋で片付けもせず、90歳まであれもこれも描きまくったそうです」。しりあがりは北斎の果てしない創作意欲に感嘆する。

 版画「冨嶽三十六景」のパロディーも。江戸の風景にドローンやスマホを描き足し、町人をサラリーマンに置きかえる。北斎の世界にしりあがりの古今東西の文物が加わり、めくるめく浮世がとめどなく描き出される。

 ■曾我蕭白×横尾忠則 様式・秩序超えた奇想の美

 大胆な筆致と細部の執拗(しつよう)な描写。岩や水の奇怪な表現。人物の不気味な表情。奇想の画家蕭白(しょうはく)の作品は、今日見てもなお鮮烈だ。

 横尾は蕭白作品との遭遇を「田んぼに突き刺さった美麗なるかんざし」のように感じたと表現する。美女の髪ではなく、泥田にかんざしが輝く異様。奇抜で型破りな画風で魅力を放つ蕭白に対する、横尾の衝撃と憧れが感じられる。

 横尾の蕭白研究は長く、以前から蕭白の作品の一部を取り入れて創作してきた。蕭白を含め、洋の東西を問わず引用された多様な図像が醸す、様式や秩序を超えた美。蕭白を敬愛する横尾の奇想の画面もまた、我々の目を強烈に引き付ける。

 ■尾形乾山×皆川明 日常に美を

 単純化された植物、水の流れや風のそよぎを視覚化した模様。乾山の陶器を一目見た皆川は、自身の布地を思い浮かべて「あ、似ていますね」とつぶやいた。

 器の中外、洋服の表と裏に二つの別の模様を施して一つの世界観を表す手法も同じ、と皆川。絵師や職人を率いて工房を営んだ乾山と、織りや刺繍(ししゅう)の専門家と協働でブランドを展開する皆川は、プロデューサーとしての役割も相通じる。

 人々が日常で使うものに美と豊かさを提案し続けるもの作りが、2人を近づけたのだろうか。展示室の2人の作品は時代の隔たりを全く感じさせないほど、しっくりと調和している。

 ■刀剣×鴻池朋子 鋼と皮、挑み合う

 平安から江戸期の8振りの刀剣に、幅24メートルの「皮緞帳(かわどんちょう)」の組み合わせ。鴻池は刀剣を文化財ではなく、切り裂く道具として、本来の機能と素材に着目した。古来動物を殺して皮をはぐことから発達した刀。牛の皮に絵を描いた自作の緞帳と相性が良いと考える。

 制作にあたり現代の刀匠にも取材した。鉄を焼き入れし、鍛え上げる。鉄という素材と格闘する刀匠の姿に、皮という異素材に絵画を描こうと試行錯誤した自身の姿も重なったという。

 抜き身の鋼(はがね)は古美術とは思えない輝きを放ち、彩り鮮やかな巨大な皮と向き合う。鋼と皮、素材と作り手が挑み合う空間を鴻池は作り上げた。

 ※写真の作品に一部、展示期間がすでに終了しているものがあります

 ■8月24日まで、東京・六本木で

 ◇8月24日[月]まで、東京・六本木の国立新美術館企画展示室2E。午前10時~午後6時。入場は閉館の30分前まで。火曜休館

 ◇一般1700円、大学生1100円、高校生700円、中学生以下無料

 ◇展覧会ホームページ https://kotengendai.exhibit.jp

 ◇問い合わせ ハローダイヤル03・5777・8600

 主催 国立新美術館、國華社、朝日新聞社、文化庁、日本芸術文化振興会

 協賛 大日本印刷、UACJ

 ◆新型コロナウイルス感染拡大防止のため、当初予定していた会期(3月11日~6月1日)が変更になりました。今後も会期などに変更の可能性があります。

 ◆会期変更により、作品の一部が展示中止、あるいは展示期間変更になりました。

 ◆混雑緩和のため、オンラインでの事前予約制(日時指定券)となっています。

 ※詳細は展覧会ホームページ、またはハローダイヤル

 ◇本展の図録(2500円)を通販サービス「朝日新聞SHOP」(https://shop.asahi.com/)で販売中。展示空間を撮り下ろした写真集「展覧会ドキュメント」とのセット版(3800円)もあります。

 ◇展示会場写真はいずれも上野則宏撮影。この特集は高木友絵が担当しました

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