広告などのグラフィックから出発し、建築や空間デザイン、ブランディングと活動領域を広げ、時代の先端と切り結んできたクリエイティブディレクター佐藤可士和。自らがシンボルマークをデザインした東京・六本木の国立新美術館で、過去最大の個展が始まる。展示内容も空間構成も、本人が指揮を執った展覧会。約30年の制作活動の軌跡を、様々な展示方法で紹介する。

 パーキングの車など街全体をメディアに使う広告戦略で話題をさらったSMAPのCD発売キャンペーン、携帯電話のデザイン、今治タオルブランドの構築、企業などのイメージを高めるロゴ……。

 およそ日常生活を送るうえで、佐藤が関わった仕事に触れたことがない、という人はいないだろう。

 本人は「僕の活動はデザイナーだったり、コンサルタントだったり、アーティストだったりと色んな側面がある。デザインの役割を拡張し、ジャンルを超えようとしてきた」と語る。

 多岐にわたる活動を、どう見せるか考えた時、整理、ロゴ、アート、空間の四つがキーワードとなったという。

 全7章の展示の冒頭は、「デザインもクリエイティビティ(創造性)あふれる整理」という、ぶれない哲学を濃縮した著書「佐藤可士和の超整理術」の紹介から始まる。

 この方法論を武器に佐藤は、企業や、教育機関、病院などクライアント(依頼者)の課題を整理して本質をつかみ、分かりやすい記号や視覚言語に落とし込む。そして、広告や包装、建築や空間などのデザインから、社会に向けて発信するコミュニケーションのあり方まで、クライアントに処方箋(せん)を示してきたのだ。

 続く展示では、この過程で生み出されたポスターや製品、斬新な広告戦略の記録などを紹介する。

 ユニクロ、楽天、T―POINTなど最も象徴的な制作物であるロゴは、独立した章でクローズアップ。幼少期から漫画の表紙や洋服のロゴ、標識が好きだったという佐藤が、これまで手掛けてきた膨大なロゴを、巨大な絵画やインスタレーション、タペストリーなどに物質化して表現する。

 その後、2000年代から増えた、クライアントの価値を視覚化して伝える「ブランディング」の仕事を、映像などで紹介する章を経て、アートワークのコーナーへ。依頼者ありきのデザインの仕事とは別に制作した、絵画などの作品を披露する。「作品づくりを通して、みんながひかれる美とは何か、ということを考察してきた」

 その成果は、自分で手を動かして描いたものをデザインに生かすなど、仕事に還元されている。

 展示の最終盤は、ユニクロで手掛けたTシャツブランド「UT」で締めくくる。

 製品デザインから購買体験までプロデュースしたUTの店舗を「作品」として、展示室に展開する前代未聞の試みで、訪れた人が実際に買えるようにもなっている。あらゆる枠を超えようと戦ってきたサムライにとって、美術館での展示という概念も拡張の対象。「さまざまな美術表現を紹介し、新たな視点を提起する」活動方針を掲げる国立新美術館も、従来は考えられなかった領域に切り込む姿勢を評価し、受け止めた。

 唯一無二の創造性を体感できる計約50の活動の展示。刺激的な鑑賞体験が、東京の真ん中で待っている。(木村尚貴)

    *

 さとう・かしわ 1965年、東京出身。名前は、士(さむらい)の強さと平和な心を併せ持つように、とロシア語学者の祖父が命名した。多摩美大卒。博報堂で「ホンダ ステップワゴン」の広告などを手掛け、2000年に独立。“士”の文字にあやかり、クリエイティブスタジオ「SAMURAI」を立ち上げた。

 ■来月3日から東京・六本木で

 ◆2月3日[水]~5月10日[月]、東京・六本木の国立新美術館。午前10時~午後6時(入場は閉館の30分前まで)。2月23日、5月4日を除く火曜と、2月24日[水]は休館

 ◆一般1700円、大学生1200円、高校生800円、中学生以下無料

 ◆展覧会ホームページ

 https://kashiwasato2020.com/

 ◆問い合わせ

 ハローダイヤル(03・5777・8600)

 <主催> 国立新美術館、SAMURAI、TBSグロウディア、BS-TBS、朝日新聞社、TBSラジオ、TBS

 <共催> ぴあ

 <特別協賛> ユニクロ、楽天、日清食品

 <協賛> セブン&アイ・ホールディングス、ヤンマーホールディングス、UR都市機構、エイブル&パートナーズ、ワイマラマジャパン、LDH JAPAN、くら寿司、クレアプランニング、コナカ、千里リハビリテーション病院、DDホールディングス、ビューティーエクスペリエンス、三井物産、丹青社、丹青ディスプレイ、日本GLP、NISSHA、カシオ計算機、グローブライド、東北新社、ナスタ、Honda、エー・ピーホールディングス、山下PMC、三輪山本、OCHABI、青木酒造、伊丹産業、カネボウ化粧品、キリンビール、山形緞通、カルチュア・コンビニエンス・クラブ、明治学院大学

 <協力> 今治タオル工業組合、KIHARA、クロススポーツマーケティング、慶応義塾大学、光和、国際空手道連盟極真会館、大洋印刷、武田薬品工業、ふじようちえん、エイベックス・エンタテインメント

 <後援> 佐賀県、有田町

 ◆原則オンラインでの事前予約制(日時指定券)ですが、当日券も館内で若干枚販売予定です。

 ◆会期などは変更の可能性があります。

 ◆入館時の検温、マスク着用にご協力ください。

 ※いずれも詳細は展覧会ホームページへ。

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