古代エジプトと、日本の神話の世界。時代も場所も異なる壮大な神々の物語に重なり合うところはあるのか――。東京・両国の江戸東京博物館で、約3千年にわたる古代エジプトの名品約130点を展示している「古代エジプト展 天地創造の神話」にちなみ、監修者の近藤二郎早稲田大学文学学術院教授と、古事記の研究で知られる古代文学研究者の三浦佑之さんが対談。神話の類似点や相違点を語った。

 ■生と死、コントラストくっきり 展覧会監修者・近藤二郎さん/来世との境の「戸」、古事記にも 古代文学研究者・三浦佑之さん

 近藤 展覧会は天地創造の物語だけではなく、古代エジプト人の精神世界や死生観、思想、宗教にも焦点をあてて掘り下げました。

 三浦 面白いと思ったのは、小さな副葬品の「シャブティ像」=[1]=です。埋葬された人にかわって農作業をする人形だそうで、死後の世界も働かされるのか、こりゃつらいなと。死後の世界観への考え方が、日本の神話の中の世界と違うのかなと思いました。印象的だったのは木棺や、冥界の指南書の「死者の書」=[2]=などにびっしりと書かれていた文字(ヒエログリフ)で、文字の威力を感じましたね。

 ――エジプトの気候が思想にどう影響しましたか。

 近藤 古代エジプト人は緑豊かなナイル川流域に住んでいました。砂漠や高地もあり、国土にコントラストがはっきりしています。晴れているから毎日、朝日と夕日が見られ、太陽が再生の象徴になっています。すべてが二元論的に考えられました。生と死、南北などが明快な世界です。

 ――古代エジプトと日本の神話の相違や類似点は?

 近藤 世界の始まりは混沌(こんとん)としていて、原初の海の「ヌン」がありました。具体的な海をイメージしたというより、ナイル川であり、地中海でもあったのでしょう。

 三浦 古事記では、泥の海から葦牙(あしかび)のように萌(も)えあがってきたものが、人の誕生を語っています。何もない所に葦の芽が出てくるイメージが最初の生命として意識されたのですね。黄泉(よみ)の国(死者の国)に行ったイザナキが人のことを「青人草(あおひとくさ)」といいますが、青々とした人である草は、枯れてもまた生えるととらえ、種が落ちてもまた芽吹くように循環的な生命を意識していたのではないでしょうか。

 ――神々と人の関係は?

 三浦 日本の神話では高天原のアマテラスオオミカミの子孫が地上におりてくる天孫降臨という、垂直的な構造がありますが、それ以前の時代では、海から神々がくるという水平的な構造がありました。古事記は、その二重構造が織り交ざっています。古代エジプトはどうだったのですか。

 近藤 神々が住む世界と、人間が住む世界が同じところにあると考えられていました。ただ、次元が違うという感じですね。死者の楽園は葦原、「イアル野」と言いますが、現世と同じところにあると考えられていました。ナイル川が流れ、ナツメヤシが生える現世と同じ楽園が死後もあるのです。現世は仮の世界で、死後の世界が本物だと考えられていたのです。

 三浦 現世と来世をつなぐものとして興味深かったのは「クウイトエンプタハの偽扉(ぎひ)」=[3]。日本の神話でも「戸」は異界との境界として度々、登場します。イザナキが黄泉の国からイザナミに追いかけられて逃げる時も、この世との間に大岩を置いて「事戸(ことど)」を渡し、絶縁しました。「言葉による戸」、別れの言葉を言ったのです。

 ――エジプトでは再生に備え、肉体を保存するためにミイラが作られました。

 近藤 死の世界である砂漠が人の住む所に隣接しています。死はすごい恐怖だったのでしょう。古代エジプト人はたくさんの神様を創造し、護符を並べ、再生のオシリス神=[4]=と同じように木棺の顔を緑色にし=[5]=、さらに「死者の書」も作るなど、死後の再生に力を注いでいます。

 三浦 再生にかける情熱はすごいですね。日本の古代の人たちがそこまで死後の世界に情熱を燃やしたかというとよく分からない。湿潤な気候の中で、人間は死んだら腐ってなくなるというのが、自然に分かっていたのでしょうか。

 近藤 死を見つめることは生を見つめること。コロナ禍の今だからこそ、展覧会で生死について考える良い機会になると思います。(聞き手・山根由起子)

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 こんどう・じろう 早稲田大学文学学術院教授、同大エジプト学研究所所長。1951年、東京都生まれ。76年から40年以上にわたってエジプト各地で発掘調査に従事。著書に「ものの始まり50話」「エジプトの考古学」「古代エジプト解剖図鑑」など。

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 みうら・すけゆき 千葉大学名誉教授。1946年、三重県生まれ。千葉大学、立正大学教授など歴任。「口語訳 古事記(完全版)」で第1回角川財団学芸賞受賞。著書に「古事記を読みなおす」「読み解き古事記 神話篇(へん)」など多数。長女は作家の三浦しをん。

 <古代エジプト神話> 宗教都市ヘリオポリスにおける創世神話では、原初の海ヌンに自力で出現した創造神アトゥムから、大気の神と湿気の女神が生まれた。オシリス神話では、弟セト神に殺されたオシリスが妻イシス女神によりミイラとして復活する。古代エジプト人は太陽は西に沈んだ後、船に乗って冥界を東へと旅し、毎日再生すると考えた。

 <古事記(712年)・日本書紀(720年)の神話> イザナキとイザナミの兄妹神が神々を生んで国土を創成する。火の神を生んで死んだイザナミをイザナキが追って黄泉の国に探しに行く。スサノオのあまりの傍若無人ぶりに、姉神のアマテラスオオミカミが天の岩戸にこもる神話や、スサノオのヤマタノオロチ退治、海幸彦と山幸彦の神話などがある。

 ■4月4日まで 東京・両国の江戸東京博物館で

 ◆4月4日[日]まで、東京・両国の江戸東京博物館。午前9時30分~午後5時30分(入館は閉館の30分前まで)。月曜休館

 ◆一般1800円、大学・専門学校生・65歳以上1440円、小中高生900円

 ◆公式ホームページ https://egypt-ten2021.jp

 ◆問い合わせ 同館(03・3626・9974)

 主催 公益財団法人東京都歴史文化財団 東京都江戸東京博物館、ベルリン国立博物館群エジプト博物館、朝日新聞社、日本テレビ放送網、東映

 後援 ドイツ連邦共和国大使館

 協力 ルフトハンザ カーゴ AG

 協賛 野崎印刷紙業

 ◆会期などに変更の可能性があります。

 ◆入館には検温、マスクの着用が必要です。

 ◆混雑状況により、入場制限や整理券配布を行う場合があります。

 ※いずれも公式ホームページでご確認ください

 ※京都市京セラ美術館(4月17日[土]~6月27日[日])、静岡市の静岡県立美術館(7月10日[土]~9月5日[日])、東京・八王子市の東京富士美術館(9月19日[日]~12月5日[日])へ巡回

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