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2012年10月18日11時49分
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上間常正のアッと@モード

伝統と未来への視線 「田中一光とデザインの前後左右」展

上間常正

写真:グラフィックアートの素材、切り紙拡大グラフィックアートの素材、切り紙

写真:「田中一光グラフィックアート植物園」ポスター(1990年)拡大「田中一光グラフィックアート植物園」ポスター(1990年)

写真:会場風景 撮影・吉村昌也拡大会場風景 撮影・吉村昌也

写真:21_21デザインサイトで行われたイベントの様子 撮影: 吉村昌也拡大21_21デザインサイトで行われたイベントの様子 撮影: 吉村昌也

写真:撮影: 吉村昌也拡大撮影: 吉村昌也

写真:撮影: 吉村昌也拡大撮影: 吉村昌也

 いまデザインへの新たな関心が高まっている。特に東日本大震災後は被災地域の復興のあり方をめぐってデザインと社会の関係が、建築や環境デザインなどの分野で活発に問い直されている。ファッションの世界ではこうした論議はまだあまりされてはいないようだが、デザイン全体ともかかわる問題としてファッションのあり方を考え直してみる必要がある。そうしなければ、ファッションは今の形のままではそのほとんどが生き残れないだろうと思うからだ。では、どうすればいいのか?

 東京ミッドタウンの21_21デザインサイトで開かれている「田中一光とデザインの前後左右」展(来年1月20日まで)は、ファッションも含めたデザインの今後の方向を考えるためのいくつかの有力なヒントを示しているように思える。田中は戦後の日本のデザインをさまざまな分野と現代的な手法で切り拓き続けた。だがその表現の底にあったのは、日本の伝統を現代の社会のあり方とそこで生きる人々の生活感覚とかかわらせて、どうすれば先につなげていけるかと考えていたことが分かる。

 この企画展のタイトルは彼の同名の著書(白水社、1995年)からとった言葉だが、「前後左右」の「前」は今日感覚から展望した未来のことで、「後」は日本の古典と市民文化の継承、そして「左右」は国際・地域交流とグローバルな視点などを意味するのだという。この本の中で田中は、「傷ついた地球の再生を考えるデザイン、非西欧文明の再認識、快適追求の後退、新品のツルツル、ピカピカではない美意識の復興。それらが二十一世紀デザインの最大の課題ではないかと思う」(一部略)と説明している。

 田中のそうした思いを伝えるグラフィック作品を中心に、デザインの原画や彼の活動の軌跡を示す写真、記録資料などが展示されている。その中には、「ああこれもそうだったのか」と思ったポスターや本の装丁、ロゴマークなども数多い。だがよく吟味された今回の展示を観ていると、彼の多彩で膨大な作品が日本の伝統と生活美学を未来につなごうとしたぶれない姿勢のもとに貫かれていたことが見て取れる。

 尾形光琳らいわゆる「琳派」の絵画イメージを新鮮なポップ感覚で落とし込んだポスター。和紙の切り紙細工の手法で平面構成した図案は、日本の湿った空気感と同時に未来に向かう底の抜けた明るさも感じさせる。日本の土俗性を追求した舞踊家土方巽の写真集「鎌鼬」や「古墳壁画」の造本・装丁……。またパチンコ屋や食堂の食品見本など、庶民の生活感覚を写しとった作品も多い。1984年にモスクワで開かれた「日本デザイン展−伝統と現代」の数々のポスターでは、日本の繊細な四季への感覚が衣食住の題材を通して見事に構成・表現されている。

 前衛的な舞踊や芝居、また横尾忠則や大竹伸朗らの絵画作品を使ったポスターなども目につくが、田中が注目した前衛的アーチストにはどこか共通してどろどろとした土俗的な感覚がうかがえる。それは多分、ヨーロッパ近代の伝統に対抗要素として組み込まれてしまった「アヴァンギャルド」とは異なる、アジア的、日本的な眼差しなのだと思う。

 田中のデザインの発想はファッションと決して無縁ではない。今回の展示には、彼と交友が深かった三宅一生とその若いチーム、リアリティ・ラボ(Issey Miyake+Reality Lab.)がいま取り組んでいる「132 5.ISSEY MIYAKE」の新作が展示されている。このブランドは再生ポリエステル繊維を日本の伝統染織産地の技術と折り紙細工を最新のコンピューター工学で解析・発展させた技術を使って服を作っている。三宅が日本的な「一枚の布」という発想からプリーツ・プリーズやA−POC、そして132 5.と続けてきた服作りの一連の取り組み、その手法と発想は田中の姿勢と深く通じるものがある。

 今回の新作は「田中一光の色」をテーマに、田中が好んだ独特の鮮やかな色使い、そして手わざが生み出す染のにじみやぼかしを生かした「前衛的な」服だった。三宅は13日、今回の展覧会ディレクター小池一子さんとの会場での対談会で、1960年に名古屋で開かれた世界デザイン会議をきっかけとした田中との交友の思い出を語った。西洋と東洋のはざ間でどんな仕事をすればよいのか、日本の伝統とどう向き合うか。そして「経済優先ではなくて、だれが、何のために、だれのために作るのか?」。思いが重なることが多かったという。

 田中と三宅に最も共通しているのは、「後」と「左右」を実際に足を運ぶことで見極めながら、いつも「前」を見続けること、なのだと思う。だから二人の作品はシンプルで色使いがよくて、アーティスティックでかつ魅力的なのだ。

  • 上間常正氏は「朝日新聞社広告局ウェブサイト @ADV」でもコラムを執筆しています。

プロフィール

上間常正

上間 常正(うえま・つねまさ)

1947年東京生まれ。72年東京大学文学部社会学科卒後、朝日新聞社入社。事件や文化などを取材し、88年から学芸部記者としてファッションを主に担当し、海外のコレクションなどを取材。07年から文化女子大学客員教授としてメディア論、表象文化論など講義。ジャーナリストとしての活動も続けている。

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