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2011年10月6日12時17分
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柏木友紀 おしゃれチャットBox

アートとファッション、境界に挑む男

柏木友紀

写真:噴水をドレスに仕立てた作品拡大噴水をドレスに仕立てた作品

写真:YKKとのコラボレーション作品の「ジッパードレス」=今年2月、ロンドン拡大YKKとのコラボレーション作品の「ジッパードレス」=今年2月、ロンドン

写真 加賀美敬氏:加賀美敬氏=同拡大加賀美敬氏=同

写真 セルフリッジ:ロンドンのセルフリッジ百貨店のショーウインドー(今年1月)拡大ロンドンのセルフリッジ百貨店のショーウインドー(今年1月)

写真:「産業革命」をテーマにしたドレス拡大「産業革命」をテーマにしたドレス

写真:エスペランサ靴学院で講演した時、自作の靴とともに=今年8月、東京・浅草拡大エスペランサ靴学院で講演した時、自作の靴とともに=今年8月、東京・浅草

写真:若手デザイナーと共に。右から中里唯馬氏、加賀美氏、原田剛(エスペランサ靴学院講師)、山縣良和氏=同。2,3、6、7は柏木写す。他は加賀美氏提供拡大若手デザイナーと共に。右から中里唯馬氏、加賀美氏、原田剛(エスペランサ靴学院講師)、山縣良和氏=同。2,3、6、7は柏木写す。他は加賀美氏提供

 ファッションはアートか。ファッション関係者なら誰もが一家言あるだろうが、当方もこのコラムの初回で書いたように、常に頭の片隅のどこかにこの問いかけが鎮座している。そんな中、思わず「Yes!」と大きくうなずいてしまった人物をご紹介したい。ロンドン在住ながら、彼には縁あって今年2回、インタビューする機会があった。

 まずは2月、まだ冷え込むロンドン。革ジャンにロングヘアをなびかせ、ファッションデザイナーの加賀美敬氏(45)はバイクでやってきた。最先端の ショップや画廊が集まるロンドンきっての繁華街コベント・ガーデンに出来たばかりのギャラリー。彼が束ねる合同展のオープニングだった。正面に飾られた 「ドレス」に目が釘付けになった。無数のジッパーが全身を走り、それでいてエレガントな白いロングドレスが、天井からつり下げられていた。ジッパーの間から赤いランプが光る。

 見たこともないその意匠。はたしてこれはドレスなのか、美術作品なのか。「着られなくても、どこかに服のイメージがあるものを作りたい。誰かが何か極端 なことをしなければ文化、文明は進化しないですから」。産業革命をテーマにレバーを引くとベルが鳴って片裾が持ち上がるブラックドレス、噴水の描く曲線をドレス に見立てたイヴニング、パラシュートの骨組みを用いたスカート…。これまでの彼の作品はどこまでも独創的かつ構築的だ。

 デザイナー、そしてアーティストとして、ファッション界、現代アート界の両面から世界の注目が集まっている。ニューヨークのファッション工科大学 (FIT)美術館ではジョン・ガリアーノ、アレキサンダー・マックイーン、ヨウジヤマモトらと共にフィーチャーされ、同館の常設収蔵品にもなっているほか、フランス、オランダ、スイスなどの著名な美術館でも展示された。アートとの境界をゆくそのスタイルは、マルタン・マルジェラやフセイン・チャラヤンを彷 彿とさせ、いやしのぐという評価も出始めた。

 もっとも、本人は「自分自身をアーティストなどとは思っていません。芸術に対しては偉大な敬意を持っています。洋服には芸術的要素はあるけれども、洋服そのものが芸術であってはいけないと思っています。芸術と芸術性は全くの別の物です。私の作品の中に、いくつか芸術性が高い物があると言う程度にしか思っていないのです。自分が表現したいことを忠実に表現した結果が、私のショーピース、芸術性の高い作品になっているのだと思います」と評する。

 よく、「どうやって食べているんですか」と聞かれることがある。「着られる服も作っているんですよ」と笑う。年2回はパリで展示会を開催、英仏の高感 度なセレクトショップや百貨店で扱っている。1月にはロンドンの高級百貨店セルフリッジで靴の個展を開き、大通りのショーウインドーは彼の作品で埋まっ た。

 「好きなことをそのまま表現した極端なショーピースも、実際の服も、実は同一線上にあるんです。核になる部分を残して後はとことんそぎ落としたものが製品なのです」

 もとは建築畑の出身。大学在学中から丹下健三氏の建築事務所に務めたが、デザインの基本は身につける物にあると一念発起。文化服装学院を経てロンドンの名門セントラル・セントマーチンズ大へ。天才デザイナーで一昨年に他界したマックイーンとは同期だが、卒業ショーでは彼をしのいでトップ。ジョ ン・ガリアーノのアトリエでアシスタントを務めたことも。その後独立し、今年15年目になる。

 彼との2度目の会談はこの8月、浅草のエスペランサ靴学院での講演会の時だった。「クリエーションとは何か」に正面から挑むその姿を慕って、日本の若手ク リエーターたちがラブコールを送って実現した。東京コレクション常連の山縣良和らとも親しく、この日もパリやミラノなどでも活躍するミハラヤスヒロ、 ユイマ・ナカザトらもが駆けつけた。中里氏は加賀美氏が審査員を務めている若手デザイナーの登竜門、イタリアトリエステで開かれているファッション・コンペ ティション(ITS)の受賞者でもある。

 講演会のテーマは「デザインの未来」。学生たちが目を輝かせて聞いていた加賀美氏の言葉とは――。

 「技術的にはやり尽くされ、100%新しいことはほぼ不可能。でも、新たなイメージを創り出すことはできる。それには、他分野のことにも入っていくという発想が大事」

 「誰かが飛び抜けたことをやって、別の誰かがインスピレーションを受け、また違うイメージを生み出す。文化とはそういうもので、一見社会の役に立たない ように見えても、新たなイメージの繰り返しがとんでもない大きな力になるかもしれない。自分のデザインが、文明を開く可能性を秘めていると思えば、素晴ら しいでしょう?」

 11月5日からはアムステルダムで個展が予定されている

プロフィール

柏木友紀(かしわぎ・ゆき)

asahi.comファッション&スタイルページのエディター。

朝日新聞社入社から10ウン年、社会部、アエラ編集部、文化部を経て、09年10月より現職。メディアとファッションなどを主に担当してきた。

3度の食事と4歳になる息子、の次ぐらいにファッションは気にかかるが、生来の面倒くさがりのため、ラクして美しくなれる方法はないものかと思案中。

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