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メークに出来ること

2011年5月6日

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普段はニューヨークをベースに仕事をしている僕ですが、3月11日、あの地震の日は東京にいました。それからNYに帰るまでの数日間は、ずっとホテルで引きこもってテレビ浸けでした。その災害の映像は、被災地にいる人より早く、衝撃的なアングルで世界中に瞬時に広がり、みんな、そこにいないのに経験したような錯覚をしたと思います。 

それから少ししてNYに…。はじめは誰でも僕が日本人だと思うと声をかけてくるのにビックリ。あの衝撃映像を見て、真剣に日本を心配したり、被災した日本人がいかに冷静で自分勝手じゃなく素晴らしいか延々と話し、(こんなに日本人が褒められた事あったかな?)励まそうとしてくれる。既にほとんど「震災うつ」だった僕は、外国人の温かい言葉に、涙が…。

だけど、もっと話していくうちに思うことがありました。「I love sushi=日本通」という程度の外人さんにとって、この被災で見せた日本人の、どこまでもまわりに気を使うメンタリティーや行動は理解出来たのだろうか? 被災チャリティーでも、参加することでビジネス的印象を善くして免税にもなることを隠さない合理的なアメリカと、 暗黙の良識が作る見えない制約と批判を意識して、売名のためというイメージにならないよう、程よいさりげなさで寄付しようとする日本人の感覚は大違い。日本在住外人の国外退避だって、彼らにとっては危険から逃げるのは当然でも、日本人からは「日本を捨てた、逃げた」と見える。一方、外国在住の日本人は「こんな時に日本にいなくて申し訳ない」と思う。小さな島国、日本の文化は相当に独特で濃い。そんなニッポンは、かなり外国から理解されるのが難しい不思議な存在なのだと思う。

それなのに「I know Japan」と今まで通りに言いたい「自称」親日のアメリカ目線、そのズレのある励ましやコメントを聞けば聞くほど、かみ合わないのを実感する。僕はあまりにフラストレーションを感じ 、とうとうNYでも人に会わずに引きこもり、情けないけどしばらく仕事は キャンセルすることに。

少したってから断れない仕事があり、相変わらず‘震災うつ’の僕は少し不安でしたが、とにかくスタジオに出かけました。久しぶりの現場です。心配するまでもなく、その日はいつも通りに仕事仲間とハグで始まり、みんなでクリエーティブなムードにひたりました。楽しいエネルギーが1番僕を元気にしてくれるのだなーと感じ、心の中で「来てよかったー!」とガッツポーズでした。

震災から4週間がたって、僕の携わるカネボウの「キッカ」のイベントのために東京に戻ってきました。震災と原発の災害を今も受け、不安と混乱が入り交じる日本。東京では「被災地のことを考えたら…」という言葉をよく耳にしました。せまいニッポン、逃げる所も無く、みんな不安で苦しいのに,あまりにもひどい被災地の状況を前にして、口に出せない…。みんなが見せるそんな少し疲れた笑顔は、人と自分を励ます笑顔のように見えました。「頑張れ」の笑顔で支えあうのは大切だと思うけど、長く続けるのは大変かなと思います。

イベントでは、こんな話をしてみました。

「メークって女性にとってなんだろう?メークは女性にとって日常のこと。女性だけの遊び道具。大したことじゃないけど、メークの香りと色は女性を少しウキウキさせます。メークがうまく仕上がると、内面から自然に笑顔がにじみ出てきます。そんな気分になれば、外に行こう…、友達やボーイフレンド、大切な人に会おうかな…って思うもの。こんな元気が出る裏技、男性にはありませんが、そうした女性の笑顔で男性も元気になれます。にじみ出て来る自然な笑顔が今、見たい。だからメーク、楽しみましょう!」

みんな、あの日から「自分の出来る事」を考えていると思います。人にしてあげることもとても大切だけど,長丁場になりますから、たまには自分にしてあげる事も大切かなって…。

そしてもうすぐ2カ月。僕はNYで仕事を再開しています。今も変わらず、人に会うたびに日本の事を聞かれ続けます。外から見る日本は怖いから、残念なことに僕の業界では今は誰も日本に行かない。だから、行ったり来たりしている僕が日本の様子を伝える。あれから少し時間が経ったから、「 会話、 かみ合わない、でもOK!」という感じ。よくも悪くもニッポンは永遠に不思議の島だと思う。みんながまた日本に来てくれることを願って…。

プロフィール

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吉川康雄(よしかわ・やすお)

メークアップアーティスト

1959年、新潟県生まれ。1983年から活動を開始し、ファッション誌や広告制作で活躍後、1995年に渡米。各国のVOGUEなどの表紙をはじめ、著名ブランドの広告、コレクション、セレブリティのポートレイト用メークなど、幅広く活躍中。ヒラリー・クリントン国務長官や、カトリーヌ・ドヌーブらセレブリティも多く手がけている。
2008年3月からはカネボウのプレステージブランド「CHICCA」のブランドクリエイターを務め、毎シーズン、日本の大人の女性に向けたメークを提案している。
世界を飛び回る毎日だが、休日はNYの自宅で妻と娘と過ごす。

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