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2012年9月5日9時53分
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「Fashion×Passhion 吉川康雄」

パトリック・デマルシェリエと行く「セントピーターズバーグ」の旅

吉川康雄

写真:あっという間にモダンで美しい絵を作り上げていくパトリックのクリエイティビティーは圧巻でした。難しい状況の中、撮影チーム全体から信頼をよせられ、グイグイ引っ張っていく。優しく静かなチームリーダーでした。拡大あっという間にモダンで美しい絵を作り上げていくパトリックのクリエイティビティーは圧巻でした。難しい状況の中、撮影チーム全体から信頼をよせられ、グイグイ引っ張っていく。優しく静かなチームリーダーでした。

写真:今回、ヴォーグの撮影で行ったセントピーターツバーグは芸術の都。ヨーロッパ建築とロシア建築が融合され、ロシアで一番美しい都市といわれています。この時期は夜中もこれくらい明るい白夜の季節でした。市街風景のスナップ(ヴォーグチーム移動バスから)拡大今回、ヴォーグの撮影で行ったセントピーターツバーグは芸術の都。ヨーロッパ建築とロシア建築が融合され、ロシアで一番美しい都市といわれています。この時期は夜中もこれくらい明るい白夜の季節でした。市街風景のスナップ(ヴォーグチーム移動バスから)

写真:撮影初日。数々のアクシデントで既に疲れ気味の撮影チーム。ドレスが到着するのを待っているモデルもテンションは下がり気味。窓の外は明るいけど既にディナータイムなのです。拡大撮影初日。数々のアクシデントで既に疲れ気味の撮影チーム。ドレスが到着するのを待っているモデルもテンションは下がり気味。窓の外は明るいけど既にディナータイムなのです。

写真:ヴォーグロシア 2012 Sep issueより。3日目は秋のトレンド、黒と刺繍、エンボスのミックスをテーマに撮影。やはり色々あって撮影が始まったのは夕方。雲行きがだんだん怪しくなる中、素早く撮影。美しい雲とゴシック調のロケーションが写真の印象を強くしている。色々な要素を一瞬で組み合わせて美しく仕上げるのがパトリックの仕事。拡大ヴォーグロシア 2012 Sep issueより。3日目は秋のトレンド、黒と刺繍、エンボスのミックスをテーマに撮影。やはり色々あって撮影が始まったのは夕方。雲行きがだんだん怪しくなる中、素早く撮影。美しい雲とゴシック調のロケーションが写真の印象を強くしている。色々な要素を一瞬で組み合わせて美しく仕上げるのがパトリックの仕事。

写真:ヴォーグロシア2012Sep issueより。今回の旅で唯一スタジオ撮影したカバー写真が早速登場しました。こんな風にこの旅では、日替わりで全く違うテイストのファッション写真撮影、毎日が新鮮でした。この後もいくつか全然違った雰囲気のカバー写真が出てくるはず。楽しみです。拡大ヴォーグロシア2012Sep issueより。今回の旅で唯一スタジオ撮影したカバー写真が早速登場しました。こんな風にこの旅では、日替わりで全く違うテイストのファッション写真撮影、毎日が新鮮でした。この後もいくつか全然違った雰囲気のカバー写真が出てくるはず。楽しみです。

写真:ヴォーグロシア2012Oct issue ADより。日替わりでパリやニューヨークから来るトップモデル達は、全員がロシア人。ロシア出身のモデルは今世界で一番人気なのです。その彼女達にとって自国のヴォーグは、ステイタスの高い露出。撮影に対する熱いエネルギーを感じました。拡大ヴォーグロシア2012Oct issue ADより。日替わりでパリやニューヨークから来るトップモデル達は、全員がロシア人。ロシア出身のモデルは今世界で一番人気なのです。その彼女達にとって自国のヴォーグは、ステイタスの高い露出。撮影に対する熱いエネルギーを感じました。

写真:初めてのセントピーターズバーグだったけど、過密スケジュールでショッピングタイムはゼロ。唯一うちの娘へお土産として持ち帰ったチームT-shirtsがこれ。さすがパトリック、みんながこんな物作ってくれるなんて!(写真1〜3、7枚目は吉川康雄のスナップショット、それ以外はパトリック・デマルシェリエによる撮影)拡大初めてのセントピーターズバーグだったけど、過密スケジュールでショッピングタイムはゼロ。唯一うちの娘へお土産として持ち帰ったチームT-shirtsがこれ。さすがパトリック、みんながこんな物作ってくれるなんて!(写真1〜3、7枚目は吉川康雄のスナップショット、それ以外はパトリック・デマルシェリエによる撮影)

 僕の生活、「ジェットセッター」といえば聞こえがいいのですが、近頃は万年時差ぼけ状態、クタクタの日々を送っていました。そんな自分に鞭打って、はるばるニューヨークからやって来たのが、ここ、ロシアの芸術の都「セントピーターズバーグ」です。ミッションは、ファッション界の巨匠パトリック・デマルシェリエ(写真家)からのお誘いで、Russian Vogue秋冬号のファッションストーリーとカバー撮影をする8日間の旅です。その後ニューヨークに戻ったら、すぐに東京へ……。無茶な日程ですが、この業界で働く者として、こんなおいしい話はやるしかない! と無理矢理スケジュールに押し込んで、やって来ちゃたのです。

 その結果、ボロボロになりながらも素晴らしいモノを見せて頂きました。それはこの旅でのパトリックの仕事ぶり。今回はそのお話をしたいと思います。

『スーパー70』

 そういえば、この前、彼と一緒に仕事したのはTeen Vogue。あれからあっという間に3年経って今はもう70歳ぐらいのはずのパトリック。「元気かなあ?」と少し心配しながらの久々の再会でした。

 到着した日の夜、早速ミーティングです。明日から最終日まで日替わりで、6つのストーリーを完成させるため、毎日20ショット以上を撮り続けるとのこと。70歳のビッグフォトグラファーとの撮影旅行は、僕の予想に反した仕事量とハードなスケジュールにびっくりさせられましたが、ファッションディレクターいわく「パトリックは仕事が速いから大丈夫。」と自信満々。「でも、70歳でこの日程こなせるの?」と不安に思ったのは、彼の次に年寄りの僕だけみたいでした。明るい外の景色に安心して打ち合わせしていると、気がついたらすでに真夜中。そう、ここはホワイトナイトの季節なのです。白夜と時差のダブルパンチ、今夜は眠れぬ夜に悩まされそうです。

 翌朝。早速、撮影開始! のはずだったのですが……。起きちゃったのです、海外ロケの撮影につきまとう、様々なアクシデントが。ドレスが税関で止められ到着しなかったり、モデルの飛行機が遅れたりと、初日からアクシデントのフルコース。早朝からのタイトなタイムスケジュールが簡単に夕方までつぶれてのスタートになりました。「白夜だから諦めないで!」なんて、絶望的な希望のことばもファッションエディターから頂いて、みんなの気分は超ダウンです。

 そんな時でもパトリックは、さすがに大人。疲れた顔も見せないでポーカーフェイス、いつもクールなんです。その上、写真を撮るのも本当に早い! この後の6日間も、結局ずっとアクシデントの連続で、ほとんど毎日、終わりが見えない無茶苦茶ハードな撮影になっちゃいましたが、パトリックの早さと白夜のおかげで、予定通り、計100ページ分以上の撮影をやり遂げることが出来たのです。スーパー70歳! そのタフな体力、精神力には、驚かされ、そして励まされました。

『早さの理由』

 このレベルの撮影では「早いから良いね」なんて絶対褒められません。それでもパトリックの仕事は早い。それには理由があるのです。

 彼はほとんどの写真家がやりたがる、モデルのヘアーメイクとドレスの事前チェックを一切やりません。腕のいい料理人がその日捕れた魚を見てから料理法を決めるように、何時間もかけヘアーメイクされ、ドレスアップしたモデルを見た瞬間の印象で撮影場所と光を決めるんです。刻々と変わる状況の中、その時に見える空気感、光、モデル、そんな実在するものを素早く1つにコラージュするのが彼のやり方。そんな彼にとって大切なのはモデルの印象を感じ取ることと活かすこと。だから前もって見ない、決めつけない。そしてモデルを見てからの絵作りは、早い! その上、迷いがないんです。「美しさ」の引き出しがめちゃくちゃ多いのでしょう。だからこそ、長時間、拷問のように全く動けない状態でスタイリングされるモデルたちがやっと解き放たれる、その「瞬間のエネルギー」を逃さないのです。プロのアーティストという言葉がぴったり! モデルたちにとっては、パトリックとのその短い時間は地獄の後の天国。至福の時となっているのが、その表情から分かります。

『スタイル』

 パオロ・ロベルシー、ピーター・リンドバーグなど、多くの写真家は、彼らの美を表現する独特な撮影スタイルを確立して有名になっています。けれどパトリックの写真にはそれがない。独創的スタイルを持った写真家が、キャリアの中で一番インパクトがあるのは、そのスタイルが出来た時。その後はある意味繰り返しです。有名になるほど、その人らしくないスタイルの写真を撮れなくなります。だけどパトリックは自由。「自分のスタイル」を追いかける必要がないから。毎回ゼロの印象から始まって、その時ピュアに感じた写真を自由に撮っているのです。そんな彼の作品は毎日変わって、時代とともに変化します。だからいつもモダン。70歳のパトリックは、最近また特に良い写真残してるなって個人的に思っていました。そんなタイミングでの今回の旅、彼の仕事のやり方が、ずっと僕自身が求めてきた考えにすんなりとシンクロしたのです。毎日リフレッシュして仕事に向かう「スーパー70」、パトリックの生き方はメンタルエイジングケアになっていること間違い無し! 生涯、感受性豊かな青年のように見えてきて、あんな70歳になるのなら悪くないなと思いました。

プロフィール

写真

吉川康雄(よしかわ・やすお)

メークアップアーティスト

1959年、新潟県生まれ。1983年から活動を開始し、ファッション誌や広告制作で活躍後、1995年に渡米。各国のVOGUEなどの表紙をはじめ、著名ブランドの広告、コレクション、セレブリティのポートレイト用メークなど、幅広く活躍中。ヒラリー・クリントン国務長官や、カトリーヌ・ドヌーブらセレブリティも多く手がけている。
2008年3月からはカネボウのプレステージブランド「CHICCA」のブランドクリエイターを務め、毎シーズン、日本の大人の女性に向けたメークを提案している。
世界を飛び回る毎日だが、休日はNYの自宅で妻と娘と過ごす。

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